
遺伝子発現マイクロアレイや,それに基づく高感度遺伝子マッピング法の発達によって,MDS病態に関連する遺伝子変異を検出できるようになりつつある。現在,MDSのターゲット遺伝子となりうる変異が次々と報告されており,今後,MDSの病態と治療法が遺伝子レベルで解明されていくものと期待される。
木村昭郎先生は,造血幹細胞の分化・増殖に重要な役割を担う転写因子AML1の2種類の変異(D171N型変異,S291fs型変異)が,病態に与える影響について報告した。AML1の変異はMDSと急性骨髄性白血病(AML)の約20%に認められるが,runt domainへのin frame変異であるD171N型変異,およびC末端側のフレームシフトを起こすS291fs型変異は,同一遺伝子上の変異でありながら,変異が生じる部位によって病態が変化するという興味深い事実が確認された(表)。
D171N型変異,S291fs型変異をもつAML1では,高頻度に多系統の異形成や分化が抑制されているなどの共通の特徴が認められる。D171N型変異では血球減少が重度かつRASパスウェイの変異が多く,他の染色体異常を共有しやすい。一方,S291fs型変異では血球減少は軽度で骨髄での増殖能は強く,RASパスウェイの変異が少なく,正常核型を有することが多い。
このような臨床像の違いが,AML1の変異の違いに基づくものであることを示すために,それぞれの変異を有するAML1をヒト臍帯血CD34+細胞に導入した。細胞分化能の低下は両変異にみられたが,長期液体培養における増殖能はD171N型変異を導入した細胞が,S291fs型変異を導入した細胞より低下していた。D171N型変異はCD34+分画のBMI-1の発現が亢進していたが,D171N型変異で頻繁にみられるadditional mutationを介してBMI-1の発現が亢進し,自己複製能や増殖能が高まると考えられた。実際に,ヒト臍帯血CD34+細胞にD171N型変異AML1を導入した後にBMI-1を順次導入することで,増殖能が亢進することが確認された。一方,S291fs型変異は単独で増殖能の亢進という形質も獲得できると考えられた。
こうした機序を介して,in vitroにおけるD171N型変異およびS291fs型変異AML1の特徴が,MDSやAMLの臨床的特徴に反映されると考えられた。
MDSの病態研究には遺伝子発現解析技術が不可欠である。W. K. Hofmann先生は,MDSにおける近年の遺伝子発現解析の発展について概説した。近年,遺伝子発現アレイのような新規技術の登場により,疾患特異的な遺伝子群が同定され,MDS,AML,健常人の間の遺伝子の違いが明らかになってきた。また,concomitant integration global gene expression analysis,高解像度500K SNPアレイおよびDNAメチル化アレイといった手法を用いることにより,MDS患者のCD34+細胞DNAゲノムのマッピングや, UPD(uniparental disomy),変異集積点の検出も可能となった。これらの高感度遺伝子マッピング法は,MDSのターゲット遺伝子の発見に大きく貢献している。
また,J. Boultwood先生は,MDSの病態と遺伝子発現系との関連性を解析した結果を報告した。MDS患者183例と健常者17例の骨髄から分離したCD34+を遺伝子発現アレイで解析したところ,MDS患者ではインターフェロン誘導性遺伝子であるIFIT1,IFIM1,IFI44L,IFIT3 などの発現が亢進しており,それが血球減少という病態に関与している可能性が示唆された。また,環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)と多系統の異形成と鉄芽球を伴う不応性貧血(RCMD-RS)が,ミトコンドリアの形態維持に重要なMFN1などの遺伝子発現パターンで明確に区別することが可能であった。不応性貧血(RA)と芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB)においては,連続した遺伝子発現パターンを示したが,RAEB2ではWntシグナル系の転写因子LEF1の発現が低下していることを示した。この遺伝子は好中球の顆粒形成に関与しており,MDSの病態進行に関与している可能性があると考えられた。さらに5q-MDS患者では,共通欠失部位にマッピングされるRPS14の発現が低下しており,それがhaploinsufficiencyによって,リボソームの安定供給を低下させ,ヘモグロビンの合成を間接的に阻害していることが明らかとなった。
本発表では,MDS細胞の遺伝子発現のデータを正常細胞との比較にとどまらず,分類,疾患の進行,染色体異常との関連などさまざまな観点から解析した。今後は臨床的実用性という観点から重要な遺伝子の選別を行い,検証を重ねていく必要がある。
J. P. Maciejewski先生は,MDS患者の核型決定におけるSNPsアレイの有用性について報告した。SNPsアレイは,従来法では検出不可能であったDNAの微小な欠失,増幅を検出できるほか,UPD変異集積点の検出に有用である。
近年,骨髄系腫瘍患者にみられるUPD集積部位の解析により,4qよりTET2が,11qよりc-Cblが責任遺伝子として同定された。TET2の変異はMDS/MPNの40%,MDSの10%に認められる。TET2遺伝子の機能は不明だが,DNAメチル化に関与していると考えられ,脱メチル化剤適応患者の指標として有用となる可能性がある。また,同様にc-Cbl変異も同定された。c-Cbl変異はユビキチンリガーゼ活性の阻害を介してFlt-3などのチロシンキナーゼの活性化をもたらし,CD34+/c-kit+分画を増加させる。
このようにSNPsアレイによるゲノム構造異常の解析は,MDS患者における新規責任遺伝子の検出に有用であると考えられる。