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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
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東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
Hanspeter Nick
Novartis Institutes for BioMedical Research
1962年にデフェロキサミン(DFO)が登場したことにより,輸血による鉄過剰患者の治療は著明に進歩し,患者の予後および生存率は劇的に改善した.しかし,持続皮下注による投与は大きな患者負担を強い,必要なコンプライアンスを得ることが困難であった.そのため,コンプライアンスを向上し簡便な鉄キレート療法のために,経口投与で有効なキレート剤の開発が望まれていた.
デフェリプロンは最初の経口鉄キレート剤であり,DFO治療に不耐容の患者に対する治療として認可された.分子量が小さく,心鉄の除去に効果を発揮するが,半減期は約1.5時間と短く1日3回の投与が必要である.さらに好中球減少症および無顆粒球症のリスクがあるために,毎週の血液検査の実施を要する.
その後開発されたデフェラシロクスは経口活性型で,Fe3+に対して高い選択性を示す3座キレート剤である.血中半滅期は8~16時間で,1日1回投与によって24時間有効血中濃度を維持する.このことにより,NTBIを低く抑え,その結果,実質組織による鉄取り込みを減らすことが可能となる.サラセミア・鎌状赤血球症・MDS・その他貧血などにおける臨床試験の結果,認容性および用量依存的な有効性が示され,現在(2007.6月時点)では世界75カ国以上でデフェラシロクスは輸血依存性鉄過剰症に対して認可されている.
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1950年代後期,チューリッヒのスイス連邦工科大学(ETH)では抗生物質が研究の中心で,そのなかでも特に注目を集めていたのは後にferrimycinとして知られるようになった鉄含有抗生物質であった.Streptomyces griseoflavusから得られるこの物質は,in vitroで細菌の増殖を強力に抑制することが発見された.また,ある種の放線菌類の培養濾液がferrimycinの効果を無効にするという結果に基づき,抗菌作用の機序をさらに特定するために,これらの培養濾液の研究が行われた.
その結果,デフェロキサミンの鉄含有型であるフェリオキサミンが,この抑制物質であることが確認された1).鉄欠乏症患者の治療のためにフェリオキサミンを鉄のキャリアとして使用することに対して多くの研究者が関心を寄せ,フェリオキサミンとして錯体を形成した場合の鉄の体内動態の研究が進められた.動物を用いた毒性試験によりフェリオキサミンの認容性が確認された後,健常人へのフェリオキサミン静注が実施された.その結果,フェリオキサミンは尿中に用量依存的に排泄され,鉄とフェリオキサミンは非常に強く結合していることが実証された.この結果から,鉄とフェリオキサミンの結合がそれほど強固であれば,生体から鉄を除去するためにデフェロキサミンを使用できるのではないかという結論に達した.
1961年に,初めてヘモクロマトーシス患者にデフェロキサミンが投与され,尿中への鉄排出量が著しく増加したことが確認された2).残念なことに,非臨床試験の段階で,デフェロキサミンを経口投与した場合には有効性が低いことが判明した.しかしながら,デフェロキサミンの開発は継続され,最初の臨床試験からわずか1年半後の1962年にはデフェロキサミンメシル酸塩(デスフェラール®)が市場に導入された.
デフェロキサミン療法は,サラセミア・メジャー患者の輸血による鉄過剰の治療に飛躍的な進歩をもたらし,患者が適切な輸血を受けられるようになった.しかし,この薬剤の最適な有効性を得るための投与方法を確立するために,さらなるデータ収集と解析に14年間もの時間を要した3).この投与方法は今日でも用いられているもので,デフェロキサミンを1日8~12時間の持続皮下注入により,週5~7日,一生涯続けるというものである.この投与方法によりサラセミア・メジャー患者の生存率は大幅に向上したが,投与による負担が大きいために治療の成否は患者のコンプライアンスに強く依存し,これを維持することは困難であった.そのため,経口投与で活性を示す鉄キレート剤の必要性は,鉄キレート療法の開発当初から明らかであった.
有効な経口鉄キレート剤を発見するために,数多くの研究所で多大な努力が払われたにもかかわらず,いずれも臨床試験段階までには至らなかった.当初,2,3‐dihydroxybenzoic acidが有望と思われた4)が,その後,無効であることが報告された5).cholylhydroxamic acid6),pyridoxal isonicotinoylhydrazone7)およびその誘導体8),さらにはdesferrithiocin9)も研究されたが,いずれも後に中止された.これには多くの理由が考えられるが,おそらく主な理由の1つは,鉄除去の薬理効果と毒性を切り離すのが困難なことであろう.これは,経口活性型の鉄キレート剤は組織や細胞膜を通過しやすく,全身に必要な鉄を無差別にキレートするためである.
デフェリプロン(1,2 dimethyl‐3‐hidroxypyridin‐4‐one,以前の名称はL1,CP20,DMHP)は,低分子量で2座配位の鉄キレート剤(表1)で,1982年にHiderらによって初めて紹介された10).この化合物は非常に例外的な開発過程を経ており,非臨床試験の評価が不完全であったにもかかわらず1987年には患者への投与が開始された11,12).有効な鉄キレート剤であるデフェロキサミンに認容性のない患者向けの代替剤がどうしても緊急に必要だったためである.当時,デフェリプロンの鉄キレート剤としての暫定評価が行われたが,治療対象領域が狭く,かつ安全性の問題から,この化合物の臨床開発は一度中断された.その後,カナダのアポテックス社(Apotex Inc.)がデフェリプロンの臨床開発に着手し,1999年8月,欧州規制当局(European Regulatory Authority)は,デフェロキサミン療法の投与が不可能なサラセミア患者に対するセカンドライン療法としてデフェリプロン(Ferriprox®)を認可した.この認可は鉄キレート療法にとって大きな進歩であった.しかし,デフェリプロンの副作用と有効性については改善の余地があることは明らかであった.
1994年に入ると,チバ(現ノバルティス ファーマ株式会社)は,既存の物質をさらに発展させるために,さまざまな物理化学的特性を備えた約700種類の化合物を対象とした創薬スクリーニングを開始した.さらに,この古典的ともいえる薬化学的手法に加え,モデルに基づいたドラッグデザインという特別なアプローチが進められた.モデルは,既知の鉄キレート剤の結晶構造や,原子荷電,距離依存的な静電エネルギー,面・角における構造制約などをもとに構築された13).このモデルによって,鉄に対し高い親和性と選択性が期待できる新たな化学構造の予測が可能になった.こうした努力により,ビスヒドロキシフェニルトリアゾール構造が,鉄と選択的に結合する有望な新規化合物群であることが示されたため,トリアゾール系の約40種の化合物が合成された.すべての合成分子は,鉄結合性試験,ラットおよびマーモセットにおける経口活性試験,動物を用いた中長期認容性試験を通じ,厳密に選択された.特に認容性試験は,初期に“有望”と思われた化合物が,長期の動物試験で許容しがたい副作用が出たために開発中止となるという過去の苦い経験から学んだ結果であった.
デフェラシロクス(4‐[(3,5‐Bis‐(2‐hydroxy-phenyl)‐1,2,4)triazol‐1‐yl]‐benzoic acid,Exjade®,
以前の名称はICL670,ノバルティス ファーマ株式会社)は,鉄に対する親和性および選択性が高く,経口活性や認容性も高いという最良の化合物として登場した.2005年11月には米国食品医薬品局(FDA)とスイス保健省が2歳以上の輸血依存性鉄過剰症患者に対するこの化合物の使用を認可した.
| デフェロキサミン | デフェラシロクス | デフェリプロン | |
|---|---|---|---|
| 構造 | ![]() |
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| 分子量 | 560.7(上記構造) デスフェラール®の有効成分であるデフェロキサミンBはメシル酸塩で分子量は656.8 |
373.4 Exjade®の有効成分 |
139.2 Ferriprox®の有効成分 |
| 配位座数 | 6座 | 3座 | 2座 |
| 鉄錯体の構造の イラスト表示 |
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| PM値 | 27 | 23.5 | 19.5 |
| 電荷/中性PH値に おける鉄錯体の電荷 |
+1/+1 | -1/-3 | 0/0 |
| 投与経路 | 皮下,静脈内 | 経口 | 経口 |
| 半減期 | 10~20分 | 8~16時間 | 2~3時間 |
| 鉄排出の 主要経路 |
約50%糞便中, 50%尿中 |
糞便中 | 尿中 |
| 臨床用量 mg/kg |
20~60 持続注入 |
20~30 1日1回 |
50~100 分2~3 |
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基礎疾患として貧血を有するために定期的な輸血が必要となる患者は,年間4~10gの鉄が体内に蓄積される.最初は,網内系(RES)に鉄蓄積が進むが,輸血が1年以上も続くと,鉄は肝臓やほかの臓器の実質組織に沈着する14).この変化は,(1):RESの鉄貯蔵能力が限界に達する,(2):トランスフェリン飽和率が上昇する,(3):(1)および(2)が生じた結果,血漿内に非トランスフェリン結合鉄(NTBI)が形成されることによって生じる.多くの肝細胞で構成される肝臓では,ほかの実質組織を守るためか最初に鉄過剰が進行する.内分泌障害(発育遅延,思春期遅延)の発症が示すとおり,内分泌系も鉄過剰の初期にその影響を受けると考えられる15).心臓における鉄過剰は最も重篤な結果を招く恐れがあり,鉄キレート療法を十分受けているサラセミア患者の場合でも死因として最も多いのが心不全である16).
輸血依存性鉄過剰症に対する鉄キレート療法の目的は,鉄過剰の臨床的障害を以下の方法により防ぐことにある:
過剰な鉄への結合能,すなわち鉄キレートの効果は,その物質の特定の物理化学的特性によって左右されるが,同時にこれらの特性が鉄に対する親和性および,選択性,経口バイオアベイラビリティ,細胞および組織への浸透性,滞留時間などを決定する.鉄は,正常の細胞機能を維持するのに必要となるため,必然的に,鉄キレート療法の有効用量の範囲は,過剰鉄によって生じる毒性と,鉄を除去し過ぎることによって生じる毒性とのあいだの狭い範囲となる.
さらに,鉄の分布の再均衡には時間がかかる点も考慮されなくてはならない.したがって,局部的な鉄過剰の場合にあっても,鉄が一時的に減少することによって鉄キレート剤が相対的に過剰となり,予期しない副作用が生じる可能性もある.しかも,長期間蓄積された鉄は,最近貯蔵された鉄よりキレートされにくいこともあり得る.これらのことを考慮すると,個々の患者にとっての鉄キレート剤の至適用量をみつけるためには,鉄蓄積の状態,輸血および鉄キレート療法の既往歴,個々の認容性および治療目的などを考慮するという継続的な作業が必要となる.治療目的としては,貯蔵鉄量の急激または緩慢な減少,もしくは現在の鉄量の維持などがある.表2に示す鉄の毒性閾値も同様に考慮すべきである.
| 臓器 | 評価値 | 閾値 | 文献 |
|---|---|---|---|
| 肝臓 | 肝鉄 [mg/g乾燥重量] |
<7 臨床的に許容可能 7~15 予後不良 >15 高リスク |
Olivieri and Brittenham 199737) Brittenham et al 199438) |
| 血液学的検査 | 血清フェリチン [ng/mL] |
<1,000 臨床的に許容可能 >2,500 心合併症のリスク |
TIF guidelines 200039) Olivieri et al 199416) |
| NTBI/LPI | →To be determined | ||
| 心臓 | T2* [ms] |
>20 臨床的に許容可能 <20 心合併症のリスク <8 心合併症の高リスク |
Anderson et al 200440) Tanner et al 200641) |
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鉄キレート療法における重要な課題は,十分な量の鉄を除去するために鉄キレート剤が体内に安定して存在していながらも,同時に細胞機能を維持するために必要な鉄依存性の代謝経路を妨げないようにすることであるが,どのような物理化学的特性が安全性のどのような面にかかわっているのかについてはあまり明らかになっていない.鉄キレート剤の安全性プロフィールは,動物やヒトの認容性試験を通して経験的に得られたものが大部分であり,このために安全性プロフィールを向上させた鉄キレート剤の設計が困難となっている.とはいえ,鉄キレート剤の安全性と有効性は,その物理化学特性,分布および代謝などの薬物動態に関係していることは確かである.
デフェロキサミンは6座配位の鉄キレート剤で,高いpM(またはpFe)値(表1,3)に示されるように,きわめて安定した鉄錯体を形成する.しかし,腸からの吸収はわずかでバイオアベイラビリティは低く,血漿中半減期が非常に短い.腸からの吸収率が低い理由には,高分子量と低親油性などが考えられる.また,血漿中半減期が短いのは,尿へ迅速に排出されるためである.
曝露量を増やすために,デフェロキサミンを小型ポンプを用いて8~12時間かけて静注,後に皮下にゆっくりと注入するという投与方法が開発された3).この手法は人為的に血漿半減期を延長し,細胞組織から鉄が遊離するのに十分な時間を与え,少なくとも投与時間中はNTBIを持続的に抑制する17).デフェロキサミンは,鉄を尿と胆汁へほぼ同程度の割合で排出させる.これまで45年以上も使用されてきたにもかかわらず,さまざまな投与方法によるデフェロキサミンの薬物動態学(PK)が明らかになったのは最近である18).ここでは,現在デフェロキサミンの標準的投与法となっているこの持続皮下注入法のPKが詳しく述べられている.40mg/kgの用量を8時間かけて注入すると,デフェロキサミンとフェリオキサミンの血中濃度は注入開始後4~8時間でプラトーに達し,10.1μmol/Lとなった.注入終了後,血漿中濃度は減少し,初期半減期は約34分,終末半減期は約9.8時間であった.後者はおそらくフェリオキサミンと思われる18).デフェロキサミン代謝の大半は肝細胞で行われ,酸化的脱アミノ反応により代謝産物Bが生じる19)が,Bは血中に戻され,迅速に尿へ排出される(血漿中半減期は1.3時間).デフェロキサミンの投与量を40mg/kg以下に維持し,鉄過剰の低減に伴って投与量を調節すれば毒性発現の可能性は低い.投与量が40mg/kgを越えた場合は,網膜および聴覚毒性,骨形成への影響が報告されている20).
デフェロキサミンの優れた特性としては,通常用量における安全性プロフィールとともに優れた効能があげられる.残念なことに,皮下注入による投与はコンプライアンスが困難で患者負担の大きい投与方法である.
| リガンド | 配位座数 | 全安定度定数 | pM値a |
|---|---|---|---|
| デフェロキサミン デフェラシロクス デフェリプロン |
6座 3座 2座 |
Log/β1=30.6 Log/β2=36.9 Log/β3=37.2 |
26b 23.5c 19d |
a:全リガンド濃度10-5mol/L,全鉄濃度10-6mol/L,pH7.4で計算されたpM値.
b:Hider 200242),c:Steinhauser et al 200421),d:Liu and Hider 200243).
生体系では,キレート剤の鉄親和性を示す実用的な指数がpM値である(もしくは,特に鉄を参照する形ではpFe3+).pH値と同様に,pM値は,臨床的に意義のある特定のリガンドと鉄の状態における溶液中の遊離鉄Fe3+濃度の負の対数として定義される.典型例としては,pH7.4でリガンド濃度が10μmol/LでFe3+濃度が1μmol/Lという数値がpMの計算に用いられる.pM値は,鉄が結合する部位に対する,pH値依存性の陽子競合を考慮に入れている.当然ながら,鉄との親和性が最も強いキレート剤の溶液中に最も少ない遊離鉄Fe3+が存在することになる(低濃度Fe3+=高い(Fe3+)負対数値=高pM値).したがって,pM値が高くなるほど,鉄キレート剤の鉄親和性も高い.
デフェラシロクスは経口活性型で,鉄に高い選択性を示す3座キレート剤である(表1).デフェラシロクスは,Fe3+に対して強い親和性を示すが,対照的にFe2+に対する親和性は低い21)(図1).評価対象の金属イオンに対するデフェラシロクスの選択性の順位はFe3+>Al3+>>Cu2+>>Zn2+>Fe2+>>Mg2+>Ca2+である21,22).
ヒトの生理的状態におけるデフェラシロクスの溶解度は比較的低いにもかかわらず(例:pH7.5で,約0.15mg/mL),ヒトでの経口バイオアベイラビリティは約70%である(論文作成中).重要なのは,ヒトにおけるデフェラシロクスの半減期が8~16時間である点である23).これにより1日1回の投与で有効血中濃度を24時間維持することが可能となった.デフェラシロクス療法の一般的な開始量は20mg/kgであるが,この用量で,約80μmol/L(Cmax)から20μmol/Lの血漿濃度が得られた.デフェラシロクスの1日1回投与で24時間キレート効果を持続させられることにより,NTBIを低く抑え24),これによって実質組織による鉄の取り込みを減らすこともできる.デフェラシロクスの用量は,個々の患者の認容性,フェリチンレベルおよび治療目的に合わせて増減が可能である.
動物試験25)および臨床試験26)によると,肝臓に蓄積された鉄がデフェラシロクスによって遊離しキレートされることが確認された.また,鉄の由来がマクロファージなどの循環系であれ,肝細胞であれ27),鉄は胆汁に排出される.デフェラシロクスとその鉄錯体がどのように肝細胞へ取り込まれるかについての輸送メカニズムや,肝細胞から胆汁への輸送形態はわかっていない.心筋細胞の研究によると,デフェラシロクスはサイトソル,エンドソームのコンパートメントおよびミトコンドリアに入り込み,これら細胞内小器官の鉄をキレートし,ラジカル形成を抑制する.さらに,デフェラシロクスは心筋細胞中の鉄も除去する28).心臓からの鉄の除去は,動物実験29,30)およびMRIによる少数の臨床例で示されている31).デフェラシロクスの主な代謝産物はアシルグルクロン酸抱合体であるが,この代謝物は鉄との結合部位が損なわれていない.臨床試験でも,デフェラシロクスの認容性は概ね良好であった.デフェラシロクスと明らかに関連性のある最も一般的な副作用として,一過性(中央値8日以下)の消化器系の有害事象がみられた.しかし,こうした症状のためにデフェラシロクスの投与量を減量もしくは中止することはほとんどなかった.また,投与量によっては血清クレアチニンの若干の上昇がみられたが,概ね一過性であり,全体的には正常範囲内であった26).
デフェラシロクスの優れた特性としては,経口投与が可能なバイオアベイラビリティ,1日1回の投与で循環中に鉄キレート剤が24時間滞留することが可能な薬物動態があげられる.1日1回の経口投与は,良好なコンプライアンスを得るための重要な要素である.
図1 各種金属とデフェラシロクスの結合定数

(デフェラシロクスの数値は文献21より転載)
デフェリプロンは鉄に対して高い選択性を示す経口活性型の2座キレート剤である(表1)32).しかしながら,低いpM値が示すとおり(表3),鉄親和性の面ではデフェロキサミンやデフェラシロクスに劣る.いったん形成された鉄錯体が希釈されると解離しやすくなるのは,この低い鉄親和性と鉄錯体の3:1化学量論(デフェリプロン分子3と鉄原子1との結合)に基づいている.しかし,分子量が小さく,分子が帯電していないために,腸から吸収されやすく,細胞内の貯蔵鉄へ素早く到達することができる.通常の臨床用量は1日75mg/kgであり,半減期は比較的短く,約1.5時間である33).体内滞留時間を延ばすために,毎日の投与量を分割することが一般的に行われている(3×25mg/kg).半減期が短いのは,水酸基が急速にグルクロン酸抱合するためであるが(表1),この部位が鉄結合には不可欠である.キレートした鉄は主に尿へと排泄される.デフェリプロンの副作用としては,顆粒球減少症,好中球減少症,関節症などがある34).顆粒球減少症をチェックするためには毎週血球数を測定する必要がある.
デフェリプロンの優れた特性としては,分子量が小さいために心鉄の除去に効果を発揮することで,特にデフェロキサミンと併用した場合はその効果が著しい(以下参照).
輸血による鉄過剰に対する鉄キレート剤の限界を拡大する可能性の1つが併用療法である.有効性の面からいえば,鉄キレート剤の併用は体内に蓄積された鉄に異なったキレート剤がそれぞれ選択的に働きかけることにより,鉄の遊離と排出量を増加することができる.併用することによって,一方もしくは双方の鉄キレート剤の用量を減らしても,個々の鉄キレート剤の用量を増やして使用する場合と同等の効果を維持できる可能性もある.デフェロキサミンとデフェリプロンの併用療法は近年増加しつつあり,使用例としては,週3回のデフェロキサミン皮下注入と毎日のデフェリプロン投与がある.デフェロキサミンとデフェリプロンを併用する場合は,デフェリプロンを日中に投与し,デフェロキサミンを夜間投与するという交代療法も実施されている.デフェロキサミンは肝鉄を効率的に遊離させるとともに心鉄を遊離除去し,デフェリプロンはさらに効果的に心鉄を遊離させるために,単剤投与に比べて,この投与方法のほうが相対的により多くの肝鉄および心鉄の除去に役立つと考えられている.さらにこの投与方法では,循環中に24時間持続して鉄キレート剤が存在するために,NTBIレベルを最小限度に抑えることが可能となる.デフェロキサミン/デフェリプロン併用療法の適切な有効性を支持するデータも存在する35,36).デフェラシロクスを臨床用量で単剤投与した場合も24時間血中に残留するが,鉄の早期除去が望まれるなど特殊な状況下においては,デフェラシロクスとデフェロキサミンの併用が有用である可能性もあるが,臨床データはまだない.これらの併用療法の問題は,高価であり,デフェロキサミンをゆっくりと皮下注もしくは点滴静注で投与しなければならず,さらに現在認可されている用法用量外であることに注意すべきである.
2種類の経口活性型鉄キレート剤であるデフェラシロクスとデフェリプロンの併用も予想されている.しかし,6座鉄キレート剤が2座(デフェリプロン)もしくは3座(デフェラシロクス)の鉄キレート剤と組み合わされるデフェロキサミン/デフェリプロン併用やデフェロキサミン/デフェラシロクス併用の場合と異なり,“デフェリプロン‐Fe‐デフェラシロクス”という混合錯体の形成が予想される.したがって,新たな安全性上の問題が生じる可能性もある.
References
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場