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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
高後 裕
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野
鉄過剰症が存在することは,家族歴,過去の輸血歴,心不全・肝不全・糖尿病・内分泌障害などの臓器障害によりその手がかりを得ることができる.本稿ではサラセミア,鎌状赤血球症,骨髄異形成症候群,再生不良性貧血など長期輸血を余儀なくされる難治性貧血に伴う鉄過剰症についての診断,フォローアップの方法について主にふれた.体内への鉄蓄積は受けた輸血量に比例して増加し,輸血総量40単位を超えると,肝臓,心臓,膵臓などの臓器障害を生じる頻度が高い.生体内鉄量は肝鉄量と比例するため,これまで肝生検による鉄量測定がgold standardであったが,侵襲性がありルーチンには用いられない.最も簡便で広く普及している方法は血清フェリチンの測定である.輸血量40単位以上,血清フェリチン1,000ng/mLを超えているときには輸血後鉄過剰症と診断でき,鉄キレート剤の適応となる.血清フェリチンの測定にあたっては,炎症・腫瘍などの影響について注意する.近年,MRIを用いたT2,T2*緩和時間とその逆数R2,R2*を用いた臓器鉄定量法が欧米で開発され,わが国でも導入されつつある.長期輸血により,肝不全・心不全など生命予後に影響を及ぼす疾患を早期に診断し,適切な鉄キレート療法を実施することが求められている.
鉄過剰症では,生体に蓄積した鉄が,諸臓器に障害を生じさせる1).鉄が過剰に蓄積して臓器障害をきたしやすい臓器は,肝臓,心臓,中枢神経や甲状腺・副腎・膵臓ラ氏島などの内分泌器官である.これらの臓器において鉄が蓄積することにより各臓器の炎症・機能不全,発癌などがもたらされる.鉄過剰の診断には,生体が鉄過剰をきたしていること,鉄過剰の原因が何によるものであるか,それに基づいてどのような治療が推奨されるかを見極める必要がある.遺伝性ヘモクロマトーシスに関しては,HFEを始め,多くの原因が同定され,わが国でもferroportin,transferrin receptor2などの遺伝子異常が報告されている2). 家族性ヘモクロマトーシスの診断と治療については,別稿で詳しく述べられおり,その診断,フォローアップについての標準的方法は確立されているといってよい.本稿では,サラセミア,鎌状赤血球症,骨髄不全症候群,再生不良性貧血など,高度の貧血に対して長期輸血を余議なくされて生じる鉄過剰症について,輸血による体内鉄増加とその推定法,鉄過剰診断の血清マーカー,特に血清フェリチンの意義と解釈にあたっての留意点,新しいMRIによる画像診断法などについて解説するとともに,肝臓,心臓など各臓器ごとの鉄過剰による臓器障害の特徴とその診断法についてふれることとする.
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生体の鉄代謝は,大部分が赤血球の産生・破壊でヘム鉄から生じる鉄を再利用することで成り立っており,消化管からの食事鉄の吸収は正常では1~2mg/日にすぎず,この量は体内全体の鉄量の0.1%にすぎない3).一方,体内鉄を体外に能動的に排泄させる機構は存在せず,皮膚や消化管粘膜細胞の脱落による鉄喪失がそれを担い,その量は正常状態の消化管からの鉄吸収量とほぼ一致している.これに対し,輸血される赤血球に含まれる鉄量は,血液1mLあたり約0.5mgであり,わが国での輸血1単位(全血200mL,赤血球濃厚液約140mLに相当)では,約100mgの鉄を含むことになる.欧米での輸血1単位は全血400mLに相当するため,論文での換算には混同しないように留意する.したがって,臓器障害を引き起こすとされる肝鉄量が7(mg/乾燥肝重量g)となる輸血量は,Angelucciらの換算式(体内鉄蓄積量(mg/kg)=肝鉄濃度(LIC:mg/g dw)×10.6)を用いると,体重50kgではほぼ40単位と計算される4).すでに述べたように,正常での鉄代謝はインとアウトは平衡状態を保っていることから,輸血された赤血球量から,異常な出血や血管内溶血による尿中への鉄喪失などがない場合には,換算した鉄量がそのまま体内に蓄積されていくこととなる.女性における生理出血の平均値は25mL/月であり,毎月2~4単位の輸血が行われている場合には,その量をはるかに超えるため体内鉄は増加を続けていくことになる.実際,長期間輸血療法を受けた鎌状赤血球症患者では,輸血量と肝鉄濃度はよく相関している(R=0.795,p<0.001)5).
生体の鉄過剰状態を知る最も簡便な方法は,血清マーカーを使用することである.体内の鉄は図1に示すように,ヘム鉄と非ヘム鉄に大別される.さらに細胞内にはヘム鉄やフェリチン,ヘモジデリンなどのノンヘム鉄のほかに,不安定鉄プール(labile iron pool;LIP)と呼ばれる分画があり,低分子の易利用鉄として存在し,この分画が過剰になるとラジカルを産生させ細胞毒となる.一方,血清中に存在する鉄の主体は,トランスフェリン鉄であるが,その他フェリチン鉄(血清フェリチン内に含まれるコア鉄),トランスフェリン非結合鉄(non‐transferrin bound iron;NTBI)がある.NTBIのなかには,さらに毒性の強い不安定血清鉄(labile plasma iron;LPI)と呼称される分画も存在し,LPIはNTBIのなかで最も鉄毒性が強いといわれている.LPIが日常的に汎用される安定した検査として普及するか否かは今後の課題である.
臨床的に生体の鉄貯蔵状態を把握するためには,血清フェリチンの測定が用いられる.血清フェリチンは表1に示すように,生体の鉄貯蔵状態を簡便かつ安価に推定できる方法で,これまでの報告から一般的に使用可能で安価であること,定期的に測定を繰り返すことにより,鉄キレート治療のモニタリングに有効なこと,心不全,肝不全などの罹患率,死亡率と正の相関があること,患者の経時的経過観察が可能などの利点がある.一方,この方法は,あくまで鉄過剰の間接的測定法で,炎症,肝機能障害,種々の進行癌などでも高値をとるなどほかの因子が値に影響を与えるため,単回測定は必ずしも体内鉄量レベルの指標やキレート治療の反応性を示す指標になり得ないなどの欠点がある.したがって,血清フェリチン値の解釈にあたってはこれらの点を十分留意する必要がある.一般的に,日常診療で生体鉄量を知る方法としては現在,血清フェリチンが利用されるため,ここでは,血清フェリチン値測定の意義を中心に解説する.
図1 生体内鉄の構成要素

生体内鉄はヘム鉄と非ヘム鉄に大別される.細胞内にはヘモグロビンやミオグロビン,P450などのヘム鉄と,フェリチン,ヘモジデリンやLIPと呼ばれる分画などの非ヘム鉄が存在する.細胞内LIP分画が過剰になるとラジカルを産生させ細胞毒となる.一方,血清中に存在する鉄の主体は,トランスフェリン鉄であるが,その他フェリチン鉄(血清フェリチン内に含まれるコア鉄),NTBIがある.NTBIのなかには,さらに毒性の強いLPIと呼称される分画も存在し,LPIはNTBIのなかで最も鉄毒性が強いといわれている.
| 利点 | 欠点 |
|---|---|
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(1)血清フェリチン
フェリチンは肝臓,脾臓,骨髄などの臓器・細胞に存在する鉄貯蔵蛋白質であり,フェリチン1分子あたり4,500分子の三価鉄を球形分子の内腔内に貯蔵することができる.1972年に,英国のJacobsらのグループにより,このフェリチンが血清中にも出現していることが報告された6).ところで,毎週500mLの瀉血を行うと,骨髄の赤血球造血の面からは1週間に産生される赤血球に匹敵することとなり,赤血球ヘモグロビン値が下がり始めるまでに瀉血された量が,ほぼ体内における過剰鉄量を示すことができる7).これにヘモグロビンの低下と消化管からの吸収鉄量で補正することにより,体内貯蔵鉄量を推定できる8).この方法は,古典的であるが「定量的瀉血療法(quantitative phlebotomy)」と名付けられている.この方法と血清フェリチン測定を組み合わせた検討が行われ,正常人の血清フェリチン値が利用可能な貯蔵鉄量を反映していることが示された(R=0.83,p<0.01)9).
血清フェリチンに関し,これまでの諸家の報告を総合して,その値を解釈する際の注意点をまとめると,表2のようになる.すなわち,血清フェリチンの基準値には,男女差があり,男性で10~220,女性で10~85ng/mLである.基準値より低値の場合には生体の鉄欠乏状態を示す.血清フェリチンが基準値より高値を示す場合は,鉄過剰,炎症・膠原病,腫瘍,肝疾患など多くの病態がある.言い換えると,血清フェリチンの検査指標としての欠点は,多くの疾患で上昇をみることにある.特に,わが国では,家族性ヘモクロマトーシスによる数千から数万になる高度異常値例がなかったので,基準値を上回る値がすべて「高値」としてとられ,炎症マーカーとしての見方が強調されてきた.
一般的に,血清フェリチンが基準値を超えた場合は,上昇程度によって大まかに分類できる.基準値を超えて2倍程度のフェリチン値の上昇,つまり250~500ng/mLの「やや上昇」では,腫瘍,慢性肝障害,慢性炎症,軽度の鉄過剰など多くの疾患がある.500~1,000ng/mL程度の「軽度上昇」では,鉄過剰以外の疾患頻度は減る傾向にある.基準値内から1,000ng/mLまでのなかに,輸血を施行されていない無効造血に伴う二次的な消化管鉄吸収増加を伴った骨髄異形成症候群,サラセミアなどの一連の輸血依存性を示す貧血群が含まれる.1,000ng/mLを超す「中等度上昇」には,その多くは,家族性や輸血による鉄過剰症によるものであるが,そのほか成人Still病や血球貪食症候群などの疾患で高値をとり,わが国ではこれらの疾患を診断する際の重要なマーカーとみなされている.5,000ng/mLを超える「高度異常値」は,ほとんどが鉄過剰によるものである.したがって,血清フェリチン値を解釈する場合には,特に極端な異常値を示す以外では,ほかの方法で炎症,腫瘍などによるもの,それらを合併しているかなどを診断,除外することが必要であるが,臨床的に難しいものではない.
血清フェリチンの各種疾患に対する体系的測定は,本法が開発された直後の1970年代後半に主に行われた.当時,再生不良性貧血,鉄芽球性貧血などでの測定値の記載があり,図2に示すように,輸血後には1,000ng/mL以上をとるのに対して,輸血未施行の症例ではそれ以下となっており,無効造血とそれに伴う消化管からの鉄吸収に伴う生体内鉄量増加は,血清フェリチンは概ね1,000ng/mLに留まることが示されていた10).一方,輸血と血清フェリチンの上昇の関連では,欧米の臨床研究で,サラセミア患者で長期輸血とそれに伴う肝鉄量の増加,それによる血清フェリチンの上昇として認められ,そのレンジは1,000~15,000ng/mLに及ぶものである.サラセミアにおいて,血清フェリチンは輸血歴と相関する(R=0.968)11).さらに,LICと血清フェリチンにも相関がみられる(R=0.73,p<0.005)12).特に,血清フェリチンが1,800ng/mLを超えると,図3に示すように,心鉄量が増加することが報告されている13).心イベントの発生率は,図4に示すように,血清フェリチンが2,500ng/mLを境に著明に上昇する14).このように,血清フェリチンが1,000ng/mLを超えてから,その濃度に応じて臓器障害が進展していく.このことから,サラセミアでは以前より血清フェリチンが鉄過剰の代替マーカーとして用いられ,ガイドラインにおいて臓器障害リスク軽減のために血清フェリチンを1,000ng/mL以下に保つことが推奨されてきた15).同様に,血清フェリチン値と臓器障害の関連については,Takatokuらがまとめたわが国の輸血依存患者でのretrospective studyでも認められ16),図5に示すように血清フェリチンと肝機能障害の出現には有意な相関性がみられ,症例の90%以上が血清フェリチン1,000ng/mLを超えていたことから,血清フェリチン1,000ng/mLがキレート療法実施の基準として妥当と考えられる.この値は,国際MDSシンポジウムの輸血による鉄過剰に対するキレート剤使用開始のガイドラインと一致している17).
| 血清フェリチンが 基準値より低値 |
血清フェリチンの基準値 | 血清フェリチンが基準値より高い場合 |
|---|---|---|
<12ng/mLの場合 鉄欠乏状態 |
男性 10~220(150)ng/mL 女性 10~85ng/mL |
|
図2 国内における再生不良性貧血,鉄芽球性貧血における血清フェリチンと輸血歴の関係についての報告例(1981年)

:再生不良性貧血,
:鉄芽球性貧血,
:悪性貧血,
:溶血性貧血,オープン:男性,クローズド:女性.
難治性貧血(再生不良性貧血(AA),鉄芽球性貧血(SA)),急性白血病(AML),慢性白血病患者の輸血歴の有無と血清フェリチンの関係が示されている.いずれにおいても輸血歴のある患者の血清フェリチンが高値をとっている.
(文献10より改変)
図3 非サラセミア患者における血清フェリチン値と心鉄量との関係

14人の非サラセミアの輸血依存患者(MDS 11名,Diamond‐Blackfan syndrome 1名,chronic hemolysis of unknown etiology 1名,AML 1名) において心鉄量をMRIを用いて定期的に測定したものである.血清フェリチン値が,1,800ng/mLを超えると心臓への鉄蓄積が現れるようになる.
(文献14より引用)
図4 サラセミア患者における血清フェリチン値と心イベント発生のない生存率との関係

各疾患において,観察期間中の毎年の血清フェリチン値が2,500ng/mLを超えた頻度別に3群に分類した.
:血清フェリチン値が2,500ng/mLを超えた頻度が33%未満であったグループ.
:血清フェリチン値が2,500ng/mLを超えた頻度が33~67%であったグループ.
:血清フェリチン値が2,500ng/mLを超えた頻度が67%以上であったグループ.
血清フェリチン値が2,500ng/mLを超えないよう維持された患者群の15年生存率は91%であり,2,500ng/mLを超えた場合には生存率は20%程度であった.
(Olivieri NF et al:N Engl J Med 331:574‐578, 1994,
©Massachusetts Medical Society, with permission)
図5 日本人輸血依存患者の血清フェリチン値と肝機能検査(AST,ALT)の関係

日本における輸血依存患者のレトロスペクティブ調査において,調査最新値の血清フェリチン値とAST,ALT異常値の分布を示したものである.それぞれ,群間には有意差が認められている.
(2)血清鉄,総鉄結合能(TIBC),不飽和鉄結合能(UIBC),トランスフェリン飽和度
この3つのマーカーは,血清中のトランスフェリン結合鉄を示す指標である.トランスフェリンは肝臓で合成される分子量7万の糖蛋白質で,1分子あたり2分子の三価鉄を結合する.トランスフェリンと鉄の結合能はきわめて強固であり,トランスフェリンが十分あり,鉄を結合する予備能が十分ある生理的状態では,血清中に毒性を示す遊離鉄は存在できないようになっている.通常,血清鉄が示す値は,トランスフェリンに結合した鉄濃度を示しているが,トランスフェリンの結合能を超えた場合,つまりトランスフェリン飽和度が100%に近い,ないし超えた場合には非トランスフェリン結合鉄(NTBI)が出現してくる.総鉄結合能は血清トランスフェリン濃度を示し,不飽和鉄結合能(UIBC)は鉄の結合していないトランスフェリン分画の比率を示している.トランスフェリン合成は主に肝臓での鉄濃度の多寡で調節されていることから,鉄欠乏では上昇,鉄過剰では低下を示す.また,栄養状態が悪化したり肝硬変による肝細胞障害で蛋白産生能が低下したりすると,TIBCもそれに応じて低値をとる.一方,トランスフェリン飽和度は,血清中にトランスフェリンと結合した鉄の割合を示す指標であるが,鉄欠乏では低下,鉄過剰では上昇する.鉄が2分子結合したトランスフェリンはダイフェリックトランスフェリン(diferric transferrin)といわれ,細胞表面のトランスフェリンに対する受容体と特異的に結合して細胞内へ取り込まれる.トランスフェリンに対する細胞受容体にはトランスフェリン受容体1(transferrin receptor 1;TfR1,古典的なトランスフェリン受容体)とそのホモログであるトランスフェリン受容体2(transferrin receptor 2;TfR2)がある.TfR1の発現は骨髄赤芽球で著しく,赤血球産生の重要な鉄取り込み経路である.一方,TfR2もトランスフェリンとの結合能はあるもののTfR1のそれに比べて弱いが,正常肝細胞に定常的に出現しているのが特徴で,何らかの鉄センサーとしての役割を果たしているものと考えられている.TfR1の一部は可溶性フォームとして血液中に存在し,骨髄総造血能を反映する18).
(3)トランスフェリン非結合鉄(non‐transferrin‐bound iron;NTBI)
血清中の鉄は,通常トランスフェリンと結合し,トランスフェリン鉄として血液中を循環し,細胞表面のトランスフェリンに対する受容体(トランスフェリン受容体1・2)を介して特異的に細胞内へ取り込まれる.それに対して貯蔵鉄が増加し,血清中に大量の鉄が出現してくると,トランスフェリンの鉄結合能力を超えた鉄は,アルブミンなどほかの血清蛋白質と結合するようになり,トランスフェリン非結合鉄(non‐transferrin‐bound iron;NTBI)と呼称される19).NTBIには,トランスフェリン以外のほかの血清蛋白質とより低い親和性で結合している分画やクエン酸やアスコルビン酸などと複合体を形成している分画などで構成され,きわめて複数の分子種となり,単純に特定することは難しい.一般的に,トランスフェリン飽和度の正常値は25%以下で,60%を超えると鉄過剰が生じてきていることを示している.さらに,100%に近くなるとNTBIが有意に上昇し始める.すなわち,生理的なトランスフェリン飽和度ではトランスフェリンに十分な結合能力があり,血清中にNTBIは出現しない.反対にトランスフェリン飽和度が上昇してきた場合にはNTBIが血清中に出現してきていると考えることができる.最近,NTBIのなかに,より毒性の強い不安定血清鉄(labile plasma iron;LPI)というレドックス作用の強い分画が存在し,この分画の増加は臓器の鉄毒性をより助長させるといわれている20).NTBIやLPIの測定は,これまでのところ施設間で方法,再現性などが異なるため,共通したパラメーターとして使用可能な方法とはまだなっていない.
肝臓は鉄貯蔵の主要臓器で,過剰鉄に対する最大の貯蔵能力を有し,肝鉄濃度を測定することが生体貯蔵鉄を知るための最も信頼できる方法と考えられる4).これまで,肝生検で得られた組織中の肝鉄濃度を測定することが,生体鉄量測定のgold standardと考えられてきた.本法で測定した肝鉄量は,瀉血により測定した全生体鉄量とよく相関する(R=0.98,p<0.001).また,前述のとおりLICと赤血球輸血歴にも相関が認められる.サラセミアにおいてはLICと臓器障害のリスクについて古くから研究されており,LICが7mg/kgを超えると臓器障害のリスクが,15mg/kgを越えると心障害による早期死亡のリスクが高まることが示されている.
しかし,肝生検による鉄定量は,侵襲性があり,穿刺部位からの出血の危険を伴い,かつ比較的大量の組織(4mg湿重量)を採取する必要があることと,また,採取部位の違いによるばらつきは避けられないなどの欠点もある.特に,貧血を伴う鉄過剰症では,血小板減少や白血球減少を伴うことも多く,その場合には出血,感染などの合併症のリスクが高まるため,ルーチンに行う検査法としては推奨されない.
鉄は金属であり,臓器・細胞内に多く集積した場合には,増加・蓄積したフェリチンやヘモジデリンなどの鉄を画像診断でとらえることができる.これまでも,腹部超音波検査,腹部CT検査により,著しい鉄過剰に陥った肝臓でおのおのハイエコー像,CT値の増加として知られている21).しかし,これらの画像所見は,肝鉄濃度がきわめて著しく増加した場合に限られ,かつ定量することもできなかった.
近年,鉄イオンの物理学的特性を利用した定量的肝濃度測定法が開発されるようになってきた.最初に開発された方法は,生体磁気スペクトロメトリー法であり,superconducting quantum interferrence device(SQUID)を用いて肝臓組織内のフェリチンやヘモジデリン鉄が生物学的磁性体であることを利用して,特定組織容積あたりの鉄量を算出するものである22).しかし,この方法が施行し得る施設は米国やドイツなど世界で数カ所のみで,かつ装置自体がきわめて高額であるため,普及しなかった.
それに対し,magnetic resonance imaging(MRI)を用いるLIC測定法は,より多くの医療施設で実施可能になり得る方法である.本法は,鉄がT1,T2,および T2*緩和時間を短縮させる特性を利用することにある.特にT2およびT2*とそれらの逆数であるR2およびR2*は鉄濃度と比例して変化するため,これらの指標が利用可能である.LICを正常者から高度の鉄過剰患者のものまで広く測定できる方法として,1.5Tの静磁場におけるR2撮像がある23).画像の典型を図6に示すが,T2像にR2像を重ね合わせることにより,鉄濃度が高い部分では低い部分の暗い領域に比べ,輝度の増加した領域として認められる.さらに,R2値とLICとのあいだには,高い相関が認められている(R=0.95,p<0.0001).R2によるLICの測定領域は0.3~42.7mg Fe/g dry tissueと臨床的な鉄過剰肝の鉄量をカバーし,感度,ばらつきとも満足のいくものである.一方,Andersonらによって開発されたR2*は,当初心臓,膵臓など肝臓以外の鉄濃度の測定に焦点があてられ,測定可能域もR2より低濃度であったため,T2,R2は肝鉄,T2*,R2*は心鉄の定量によいとされていた.しかし,最近R2*の条件を肝鉄濃度測定の条件に合うよう設定し,R2およびR2*を同時に測定,比較した結果では,輸血依存鎌状赤血球症患者での肝鉄濃度を測定した際に,両者に差はみられず,両方のパラメータとも肝,心鉄濃度測定に使用可能であるとする報告もあり24),さらにマウスを用いた動物実験でも確かめられた25).わが国では,いずれの方法も普及していないが,MRI装置の性能,普及率からみて,計測ソフト,キャリブレーションの問題が解決されれば,今後急速に使用可能になると考えられる.
図6 肝臓のMRI R2の画像例

A:肝炎,B:遺伝性ヘモクロマトーシス,C:βサラセミア,D:βサラセミア/ヘモグロビンE.
肝臓R2画像をみやすくするために,T2画像と重ね書きされている.鉄濃度が高い部分では低い部分の暗い領域に比べ,輝度の増加した領域として認められる.
(文献24より引用)
鉄過剰症における心不全は心臓への鉄沈着によるもので,心筋細胞と間質に存在するマクロファージに鉄が蓄積する.鉄沈着の著しい部位としては,心室壁,心室中隔,乳頭筋,および心外膜である.心鉄濃度の絶対値は,心筋生検試料の鉄濃度測定により得られることができるが,手技的なリスクから通常は用いられない.
今後期待されている心鉄濃度測定法は,Andersonらが開発したMRI T2*,R2*を用いる方法である26).本法はT2,R2に比べ,撮像時間1呼吸時間で済み短時間であること,もともと心臓や膵臓など肝臓に比べてより低濃度が沈着し,障害を生じる臓器に焦点をあてて開発されてきた方法であるなど,心鉄量の定量に利点があるとされている27).Westwoodらは,心不全による肺水腫を起こしたβサラセミア患者で心筋生検とMRI T2*撮像を同時に行い,本例でMRI T2*緩和時間の短縮と心筋細胞および間質マクロファージへの鉄沈着を認め報告している(図7)28).この方法により心鉄量の挙動が経時的かつ信頼性をもって把握できるようになった.その結果,肝鉄と心鉄蓄積の時間的経過は異なり,一般的にはまず肝鉄の蓄積が始まり,高度になると心臓への鉄蓄積が起こる.図8のMRI T2*による画像例のように,鉄過剰が進行したときに心臓と肝臓の鉄蓄積の度合が逆転する場合も報告されている29).
図7 心不全を起こしたβサラセミア患者の心筋生検所見とMRI T2*像

29歳男性,肺水腫で入院,心エコーで左室の拡張と収縮不全あり.右室中隔からの心筋生検(左)で心筋細胞の腫大と鉄沈着(黒矢印は心筋,赤矢印は間質マクロファージ)のプルシアンブルー陽性鉄顆粒を示す.MRI T2*像(右)では心室中隔は黒く造影(白矢印)され,T2*値は6~9ms(正常>20ms)と収縮,生検組織の鉄定量では正常の約9倍(4.52g/dry weight)であった.
(文献28より引用)
図8 肝臓と心臓のMRI T2*の画像例

Aの患者では肝臓に鉄が蓄積されていて肝臓が黒く写っているが,心臓(矢印)にはあまり鉄蓄積が進んでいない.一方,Bの患者では肝臓の鉄蓄積以上に心臓(矢印)の鉄蓄積が進行している.このような患者では肝鉄濃度だけで心イベントの発生やキレート療法による心機能回復を予測することは困難である.
(文献29より引用)
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肝臓は鉄貯蔵の主要臓器で,過剰鉄に対する最大の貯蔵能力を有している.定期的な輸血療法を開始すると,肝臓に鉄過剰が生じるが,2年以内では肝機能検査は正常かトランスアミナーゼがやや高値をとる程度であるが,肝臓の線維化が生じてくる場合があり,肝生検では図9に示すように鉄の沈着と線維化がみられる.さらに肝硬変へ進行した場合には,肝容積の増加,左葉優位の肥大,触診での肝下縁を固く触知,トランスアミナーゼの中等度上昇,ほかの肝機能検査は正常またはやや異常値をとる.輸血依存性貧血の患者に対しては,CTまたはMRI,血液生化学的検査(トランスアミナーゼ測定など)により鉄過剰に伴う肝線維化・肝硬変への進展の有無を評価することが重要である.
図9 輸血後鉄過剰症(鉄芽球性貧血)の肝組織像

AおよびB:中等度鉄過剰症と肝線維化,25歳男性の肝生検組織のHE染色(A)および鉄染色(B)像.
CおよびD:高度鉄過剰症と小結節性肝硬変,45歳男性の剖検肝組織のHE染色(C)および鉄染色(D)像.
(Bottomley SS:Hemochromatosis (Barton JC et al eds). Cambridge University Press, London, 2000, pp. 442‐452より引用)
長期輸血による死因として心不全は重要である.特にサラセミアにおける死因の約70%が心原性である30).鉄過剰による心筋障害のサインは,心肥大,心不全,不整脈,および心膜炎である.心臓へ鉄が沈着した場合の心臓障害は,基本的には拡張型であり,収縮期または拡張期の機能障害として出現する.心不全が高度になると,胸部X線写真では,左心室肥大による心シルエット拡大と左房圧亢進による肺血管影の増強がみられる.心エコーでは,左室機能障害がみられることが特徴である.特に左室機能障害については,VEFの低下としてみられる.このVEFの低下は,臨床的な心不全や胸部X線での心陰影の拡大が出現する以前にみられることから,心エコーは鉄過剰による心筋障害の経過をみる際に有用な検査法であるとされている.MRIでも心室機能の低下をみることができるが,同時に心筋への鉄沈着が高度になるとシグナル強度の増加として捉えられる.さらにMRIのT2*またはR2*の計測により,息止め,操作時間などの面から比較的簡便に鉄濃度の半定量を行うことができるため,より軽度の心筋への鉄沈着も診断できるようになってきている27).心臓への鉄蓄積が著明になるのは,肝鉄濃度が>15mg/g dry weight,血清フェリチン値で>1,800~2,500ng/mLに対応するとされる14).
総じていえることは,臓器障害が出現する頻度は,血清フェリチンが1,000ng/mLを超えたときには,肝機能障害から始まって臓器障害が出現することは多くの報告からみて明らかで,さらに高度になると心臓障害をきたすと考えられる.そこで,長期輸血例では,当面は血清フェリチン値を1~3カ月に1回測定してその変化に注意し,高値例では心不全の自覚症状や不整脈などの出現に注意するとともに,経時的に心エコー検査を行うことで経過を観察することが妥当である.不整脈の出現はときに致死的となるため,患者が不整脈を自覚した時点でホルター心電図をとることは勧められよう.ただし,鉄過剰による心臓障害を,あらかじめ定期的にホルター心電図でフォローすることの有用性は認められていない.結論としては,現在の段階では,血清フェリチン値の経時的測定と定期的な心エコー検査を行うことが妥当である.今後,MRIによる心鉄濃度の測定が導入されよう.
膵臓のβ細胞への鉄沈着は著明であり,鉄による膵β細胞障害が鉄過剰による耐糖能低下,糖尿病の発症につながる.さらに鉄過剰症では,同時に肝機能障害も生じるため,肝臓でのインスリン利用率も低下し,一時的に高インスリン血症が生じ,そのため膵β細胞の枯渇を促進するとされている31).したがって,鉄過剰症による耐糖能異常,糖尿病の発症には膵臓と肝臓の両者が密接に関与していることとなる.臨床的には,血糖,尿糖の測定,血清グルコースの長期間値の指標となるグリコアルブミンの測定などが有用である.輸血依存性の貧血における鉄過剰症では,グリコヘモグロビンは輸血中の赤血球内グリコヘモグロビン値の影響が出るため,指標となり得ない.
長期間輸血によってみられる内分泌障害は,膵β細胞以外に,成長障害,性徴不全,甲状腺機能障害などがある32).特にサラセミアや鎌状赤血球症などでは幼少時から輸血を受けていることが特徴であり,そのため若年者での長期輸血は心臓,肝臓,膵臓障害のほかに発育障害や性徴不全を起こすことに留意しておく必要がある.
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鉄過剰の治療には,大別すると瀉血と薬物療法がある.瀉血は遺伝性ヘモクロマトーシスや貧血のない二次性鉄過剰症で用いられる標準的な治療法である.一方,薬物療法は瀉血を施行し得ない状態の患者に対し,主に用いられる方法である.鉄過剰治療のモニタリングには,生体鉄量のモニタリングと,鉄過剰により生じた臓器障害のモニタリングの両者が含まれる.特に鉄キレート剤を用いた場合には,用いたキレート剤により出現する副作用や鉄のオーバーキレートにより出現する臓器障害を考慮しつつ,キレート剤の使用を継続する必要がある.
瀉血療法は,貧血のない鉄過剰の治療に用いられる.1回の瀉血で200mLの血液をとると,ヘモグロビン鉄として100mgの鉄が除去されることになる.逆に1回の瀉血で400mL,すなわち200mgの鉄が,5回の瀉血で1gの鉄が体外へ除去されることとなる.通常は,血清フェリチンの低下をもって瀉血による鉄除去効果を推定する.
遺伝性ヘモクロマトーシスでは,原則的に毎週300~400mLの瀉血を,血清フェリチンが50ng/mLになるまで繰り返すのが目安である.一方,C型慢性肝炎などにおける鉄過剰は,輸血後の鉄過剰に比べるときわめて軽度なものであるが,この場合の瀉血の目安は,月1回400mL程度の瀉血が目安で,ヘモグロビン12g/dL,血清フェリチン20ng/mLとむしろ貯蔵鉄を完全に枯渇させるレベルを設定している医療機関が多い33).これらの血清フェリチン値の基準は,鉄キレート剤による除鉄療法における血清フェリチンの目安が,キレート剤使用によるオーバーキレートによる副作用を避けるために,500ng/mLを下回らないようにしていることと大きく異なる.現時点では,慢性肝炎に対する瀉血治療のエンドポイントは,肝機能検査の改善とそれによる線維化,癌化の阻止を目的としているところが,輸血後鉄過剰における心不全や肝不全などの致死的な病態の発生は抑えて生命予後を改善するための血清フェリチン下限の設定とは異なっていることに注意が必要である34).C型慢性肝炎における瀉血療法では,一般に鉄制限食による食事からの鉄吸収量を調節する方法が併用される35).
鉄キレート剤による鉄過剰の治療では,瀉血時と異なり,体外へ除去された鉄を推し量ることは簡単ではない.デフェロキサミンではキレートされた鉄は尿中へ,デフェラシロクス(ICL670)では糞便中に鉄・キレート複合体として排泄されることから,その量を測ればよいことになるが,日常臨床では用いられない.一般的な指標としては血清フェリチンの測定が利用される.輸血量が20単位を超え,血清フェリチンが500ng/mLを超えた場合には鉄過剰症として臨床的に診断でき,さらに輸血量が40単位ないし血清フェリチンが1,000ng/mLを超えている場合には,近い将来心不全,肝不全となって死亡するリスクが高まることからみて,逆に血清フェリチンが1,000ng/mLを切り下降していくことが鉄過剰治療モニタリングのよい指標になる.また,鉄キレート剤が奏効して臓器の過剰鉄が除去されると,肝臓ではALT,ASTなどの肝機能検査の改善が,心臓では心拡大の軽減,心拍出量の改善がみられる.欧米におけるデフェラシロクス(ICL670)の第Ⅲ相試験で,肝生検を治療前後で検討し得た症例では,図10に示すようにプルシアンブルー染色で明らかな可染鉄顆粒の消失とLICの低下が認められている.将来的には,MRIを用いた肝鉄濃度および心鉄濃度のモニタリングが行われることになるであろう.
図10 経口鉄キレート剤デフェラシロクス(ICL670)が奏効した症例の治療前後における肝生検組織のプルシアンブルー染色像

症例412/3:(a)治療前 LIC16mg Fe/g dry weight,
(b)治療後 LIC3.3mg Fe/g dry weight.
症例503/1:(c)治療前 LIC18.4mg Fe/g dry weight,
(d)治療後 LIC5.2mg Fe/g dry weight.
(Cappellin MD et al:ASH December 2004, #3619より引用)
長期輸血を余儀なくされる難治性貧血に伴う鉄過剰症では,体内鉄量は受けた輸血量に比例して増加し,輸血総量40単位を超えると,肝臓,心臓,膵臓などの臓器障害を生じる頻度が高い.体内鉄量を推定するには,肝生検による鉄量測定がgold standardであったが,侵襲性がありルーチンには用いらず,最も簡便で広く普及している方法は血清フェリチンの測定である.輸血量40単位以上,血清フェリチン1,000ng/mLを超えているときには輸血後鉄過剰症と診断でき,鉄キレート剤の適応となる.血清フェリチンの測定にあたっては,炎症・腫瘍などの影響について注意する.近年,MRIを用いたT2,T2*緩和時間とその逆数R2,R2*を用いた臓器鉄定量法が欧米で開発され,わが国でも導入されつつある.長期輸血により,肝不全・心不全など生命予後に影響を及ぼす疾患を早期に診断し,適切な鉄キレート療法を実施することが求められている.
References
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場