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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
鈴木隆浩,高徳正昭*,小澤敬也
自治医科大学内科学講座血液学部門
*現所属:セルジーン株式会社
わが国における鉄過剰症はほとんどが続発性(二次性)であり,頻回の赤血球輸血に伴って発症する.基礎疾患は骨髄異形成症候群と再生不良性貧血で80%以上を占めている.血清フェリチン値は鉄過剰症,ヘモクロマトーシスの簡便なマーカーとして利用可能であり,フェリチン値が1,000ng/mLを超えると肝障害,心機能障害の頻度が増加する.血清フェリチン値は総輸血量と相関して増加し,40単位以上の赤血球輸血で約75%の患者が1,000ng/mLを超えると推定されるため,これ以上の輸血を受ける患者には鉄過剰症を念頭においた対応が求められる.鉄過剰症の治療には鉄キレート剤が必須であるが,現在わが国で認可されているデフェロキサミンは,連日投与の場合は効果がみられているが,外来患者には十分量の投与が難しく,大多数の患者において有意の効果が得られていない.今後は経口鉄キレート剤(デフェラシロクス)が使用可能になると予想され,鉄過剰症の治療が容易になると期待される.
健常人においては鉄の吸収と排泄のバランスは保たれており,体内総鉄量はほぼ一定に保たれているが,何らかの理由でこのバランスが崩れ,鉄が過剰に体内に貯溜した状態になったものが鉄過剰症である.鉄過剰症では過剰な鉄がヘモジデリンとして肝臓,膵臓,心臓などに沈着して臓器障害を引き起こし,最終的にヘモクロマトーシスと呼ばれる状態となる.
鉄過剰症はその原因によって特発性(遺伝性)と続発性(二次性)に分けられるが,わが国において特発性鉄過剰症の報告は少なく,ほとんどの症例は頻回の赤血球輸血に伴う続発性鉄過剰症であると考えられている.特発性鉄過剰症については他稿に詳述されているため,本稿では主に輸血に伴う続発性鉄過剰症の現状について述べる.
これまでわが国における続発性鉄過剰症については大規模な調査研究報告が存在せずその実態の把握は困難であったが,2005年に厚生労働省特発性造血障害に関する調査研究班によって日本の医療機関を対象に鉄過剰症についての調査研究が行われ,報告が取りまとめられた1).本調査研究はわが国における初めての鉄過剰症調査であり,本稿では主に同調査によって明らかとなった結果を概説する.
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同調査では2001年8月から2005年12月までに診療が行われた輸血依存症例を対象にアンケートを実施し,全国43医療機関より292例について回答を得た.ここにおける輸血依存症例とは,1カ月に2単位以上の赤血球輸血を6カ月以上行った症例を指す.その結果,基礎疾患では骨髄異形成症候群(MDS)が全体の52.1%を占めて最多であり,これに再生不良性貧血(30.8%)が続き,両者で全体の80%以上を占めていることが判明した.これらの疾患では多くの場合長期にわたって輸血を必要とすることがその理由と考えられる.そのほかは赤芽球癆,骨髄線維症がそれぞれ5%程度を占めていた(表1).
| 基礎疾患 | 症例数(%) |
|---|---|
| 骨髄異形成症候群 | 152(52.1) |
| 再生不良性貧血 | 90(30.8) |
| 赤芽球癆 | 15( 5.1) |
| 骨髄線維症 | 13( 4.5) |
| その他 | 26( 8.9) |
| 不明 | 2( 0.7) |
*:6例は複数の疾患に罹患している.
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調査症例において,輸血依存期間は12カ月以下から31カ月以上まで幅広く存在し,1年間に受けている輸血量は平均61.5単位であった.また,調査終了時までに受けた赤血球輸血の平均総単位数は161.5単位であった.血清フェリチン値は総輸血量の増大とともに増加しており,フェリチン値を約半数の患者において1,000ng/mL以上まで増加させるのに要する輸血量は21.5単位と算定された.さらに,43.4単位の輸血では75%の患者でフェリチン値が1,000ng/mLを超えると計算されている(図1).このことは20~40単位以上の輸血を受けた患者では鉄過剰症を念頭においた対応が求められることを示している.
図1 血清フェリチン値1,000ng/mL超の患者割合と輸血総量の関連

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経過中約40%の症例に血清GOT値あるいはGPT値の異常が認められており,MRI検査で肝鉄濃度測定を行った患者においては,84.6%に肝鉄濃度の異常が認められている(13例中11例).また,心機能検査を施行した症例の22%(64例中14例)に心機能異常が認められるなど,輸血依存患者においては経過中高率に肝障害,心機能障害が認められ,わが国においても輸血による鉄過剰によって高頻度に臓器障害が生じている実態が明らかとなった.
臨床現場では鉄過剰を示すマーカーとして血清フェリチン値が用いられることが多いが,血清フェリチン値は総輸血量が増えるに従って有意に増加しており,輸血による鉄過剰とフェリチン値には正の相関関係があることが確認された(図1).そして血清フェリチン値と各種臓器障害も有意に関連しており,フェリチン高値(1,000ng/mL以上)の患者においては有意に肝障害(GOT,GPTの異常)の頻度が高く(図2),心機能異常を呈する患者の血清フェリチン値も高値であることから,高フェリチン血症は肝障害,心筋障害の発生予測因子であると考えられる.体内総鉄量は本来MRIによる肝鉄濃度測定によって評価されるのが標準であるが,この結果は実際の臨床現場において血清フェリチン値が体内総鉄量の簡便な代替モニターとして利用可能であり,ヘモクロマトーシスの予測因子としても利用可能であることを示唆している.
図2 血清フェリチン値と血清トランスアミナーゼ値の関連

A:血清フェリチン値別患者分布.
B:血清フェリチン値別各患者グループにおける血清トランスアミナーゼ値の分布.
血清フェリチン高値の患者では肝機能障害の頻度が増加する.
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調査では75例の死亡症例が報告されており,そのほとんどは感染症あるいは白血病化による死亡であったが,心不全と肝不全による死亡が全死亡例のそれぞれ24.0%,6.7%に認められている.これらの患者は有意に多くの赤血球輸血を受けており,血清フェリチン値もそれ以外の患者に比べて高値であった.血清フェリチン値が1,000ng/mL以上の患者ではそれ未満の患者より死亡率が高く,死亡患者においては高フェリチンレベルの患者が多いことから(図3),死亡におけるヘモクロマトーシスの関与が示唆される.
鉄過剰症の治療には鉄キレート剤が用いられるが,現在わが国で保険適応が認められているのはデフェロキサミン(DFO,デスフェラール®)のみである.DFOは標準的な鉄キレート剤として各国で使用されているが,本薬剤は消化管から吸収されず,血中消失半減期も短いため,1週間に5~7回の注射投与が必要になるなどきわめて投与が不便な薬剤である.同調査では鉄過剰症と診断された患者でDFOの投与を受けていたのは43.2%であると報告している.DFOの投与は平均61.6単位の赤血球輸血施行後に開始されており,投与経路は静脈内注射が約40%を占めており最多であった.しかし,これらの患者のうちDFOの連日あるいは持続投与を受けている患者は8.6%に留まり,ほとんどの患者は輸血と同時あるいは平均約2週間に1回の定時投与を受けているにすぎないことが明らかとなった(図4).
DFO投与による臓器障害および予後の改善を解析したところ,いずれも有意な改善は認められなかった.しかし,評価対象を連日・持続投与群に限ってみると,血清フェリチン値,GOT値,GPT値および空腹時血糖の異常は治療開始後には改善しており,DFOの連日投与が肝障害,耐糖能異常の治療には重要であることが示されている(表2).
図3 死亡患者の血清フェリチンレベル

図4 デフェロキサミン(DFO)投与を受けている患者割合およびその頻度

| 定期的間欠投与 (1回/2週) |
輸血時投与 | 連日/持続投与 | |
|---|---|---|---|
| 血清フェリチン値 (ng/mL) |
+2,222.8(n=36) | +2,204.8(n=19) | -1,135.2(n= 9) |
| 血清GOT (mU/mL) |
+28.0(n=53) | +40.0(n=30) | -9.2(n=10) |
| 血清GPT (mU/mL) |
+28.6(n=53) | +10.3(n=30) | -28.8(n=10) |
| 空腹時血糖値 (mg/dL) |
+31.2(n=31) | +8.2(n=12) | -4.8(n= 5) |
DFO投与患者における輸血期間中の検査値の推移を示したもの.+は増加,-は減少を示す.
わが国における輸血に伴う鉄過剰症の現状について概説した.今回の調査では,約半数の患者が経過中に肝障害を呈しており,心機能障害も評価患者の22%に認められ全死亡原因の24%を占めているなど,わが国においても鉄過剰症に伴う臓器障害が高頻度で発生していることが明らかとなった.
輸血が避けられない患者において鉄過剰症を予防するには鉄キレート剤を適切に使用するほかに方法はないが,わが国で現在唯一利用可能なDFOはほとんどの患者で2週間に1回程度の投与にとどまっており,効果不十分であることが明らかとなった.DFO治療を受けていない患者も半数以上に上る.その理由にはDFOが注射製剤であり,外来治療が中心のMDS,再生不良性貧血患者には連続投与が難しいことが大きな原因として考えられる.また,連日の注射は血球減少を伴うこれらの患者には感染症,出血を引き起こすリスクが高い.しかし,鉄過剰症が臓器障害および死因に関係していることは明らかであるため,わが国の現状に即した有効な鉄キレート療法の確立が望まれるところである.最近になり新規経口鉄キレート剤デフェラシロクス(Exjade®)が欧米をはじめとする国々で承認され,良好な治療成績が認められてきている2,3,4).本薬剤は消化管より容易に吸収され,血中半減期も8~16時間と長いため1日1回の内服で十分な治療効果が期待できるなど,DFOの問題点が大きく改善されている.わが国では2007年現在治験中の薬剤であるが,将来においては本薬剤が服用のコンプライアンスを改善し,鉄過剰症の有効な治療に役立つことが期待される.
References
| 1) | Takatoku M, Uchiyama T, Okamoto S et al:Retrospective nationwide survey of Japanese patients with transfusion‐dependent MDS and aplastic anemia highlights the negative impact of iron overload on morbidity/mortality. Eur J Haematol 78:487‐494, 2007 |
|---|---|
| 2) | Cappellini MD, Cohen A, Piga A et al:A phase 3 study of deferasirox (ICL670), a once‐daily oral iron chelator, in patients with β‐thalassemia. Blood 107:3455‐3462, 2006 |
| 3) | Piga A, Galanello R, Forni GL et al:Randomized phase II trial of deferasirox (Exjade, ICL670), a once‐daily, orally‐administered iron chelator, in comparison to deferoxamine in thalassemia patients with transfusional iron overload. Haematologica 91:873‐880, 2006 |
| 4) | Porter J, Vichinsky E, Rose C et al:A phase II study with ICL670 (Exjade), a once‐daily oral iron chelator, in patients with various transfusion‐dependent anemias and iron overload. Blood 104:abstract 3193, 2004 |
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場