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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
林 久男,巽 康彰,服部亜衣
愛知学院大学薬学部薬物治療学
わが国のhereditary hemochromatosis(HH:遺伝性ヘモクロマトーシス)―遺伝性の鉄過剰による多臓器障害―について,遺伝子解析された症例を中心に,血清ヘプシジンの動態を加味して,病態を述べた.わが国では50歳前後で肝硬変・糖尿病・色素沈着の3主徴を示す常染色体性劣性遺伝の古典的な病型はTfR2の変異によるものが多く,原因は明らかでないが,欧米白人では若年型の遺伝子型であるHJVによる古典的な病型がある.欧米白人に多いHFEのC282Y/C282YによるHHが1例報告されている.これらのHHでは血清ヘプシジンが低く,腸管でのフェロポルチンの機能抑制が作動せず,鉄が無制限に吸収されると思われる.SLC40A1の変異による常染色体性優性遺伝のフェロポルチン病もわが国で確認されている.他施設で確認された症例は肝細胞と網内系細胞に鉄が大量に沈着していた.われわれの症例は網内系に鉄が選択的に蓄積し,臓器障害も軽微であった.その血清ヘプシジンはフェリチンと相関して高く,HHとの鑑別に有用であった.
遺伝性ヘモクロマトーシス(HH)は,鉄輸送関連蛋白の先天性機能異常で発生する鉄過剰症である.古典的な病型は,50歳前後に肝硬変・糖尿病・色素沈着の3主徴を示す.肝臓では主に肝細胞に鉄が沈着し,門脈域の線維化が進行して肝硬変になる.膵臓ラ氏島のβ細胞に鉄が沈着しインスリン分泌が低下するため糖尿病となる.鉄吸収が強いため20~30歳台で発症するものは若年型と呼ばれ,心不全,性器発育不全が前面に出る.心筋細胞に鉄が蓄積し,伝導障害による不整脈と心筋収縮力の低下により心不全となる.
1996年,FederらがHH患者にHFEのC282Y/C282Yを報告したが1),このHFE‐HHはわが国を含めたアジアとアフリカにはほとんどない.2000年,Camaschellaらによりトランスフェリン受容体2(TfR2)に変異をもつHHが確認されたのを機に2,3),non‐HFE‐HHの検索がはじまった.また,主に網内系の鉄蓄積症であるフェロポルチン病(ferroportin;SLC40A1)は4,5),鉄の細胞毒性の観点からも注目されている.
これらの鉄輸送関連蛋白の一部は,肝臓でのヘプシジン(hepcidin or human antimicrobial peptide;HAMP)の産生・分泌を制御する6).血中に出たヘプシジンは,二価金属輸送体(divalent metal transporter1;DMT‐1)により腸管上皮に吸収された鉄を,血管極にある鉄排出蛋白であるフェロポルチンを介して血液中に放出することで,鉄吸収量を規定しているとの仮説が有力である.Tomosugiらにより開発された血清ヘプシジン25の測定は7),HHの病態を解析する手段としても有用である.本稿ではヘプシジンの動態(Kaneko Y et al:Direct determination of serum hepcidin 25 is a sensitive screening test for hemochromatosis. BioIron 2007, Abstr No. O‐77, Kyoto)を加えて遺伝性鉄過剰症の病態を解説する.
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古典的な病型のHFEとTfR2の遺伝子変異の同定に次いで,若年型のHH遺伝子としてヘモジュベリン(hemojuvelin;HJV)8),HAMP9)が相次いで確認された.TfR2とHAMPの解説は他稿(第1章の2と3)に譲り,本稿ではHFE,HJV,SLC40A1について述べる.これら鉄輸送関連蛋白と鉄過剰症との関連を図1に示す.
図1 鉄過剰症に関連した鉄輸送関連蛋白の肝細胞,クッパー細胞,腸上皮細胞での局在とヘプシジンの役割

遺伝性鉄過剰症はヘモクロマトーシスとフェロポルチン(ferroportin;FP)病に分けられる.前者はTfR2(hepatic transferrin receptor)とHFEによる古典的な病型とHJV(hemojuvelin)とHAMP(human antimicrobial peptide)による若年型がある(わが国にはHJVによる古典型の報告がある).肝細胞(hepatocytes)では,細胞膜のTfR2,細胞内のHFEとHJVによりHAMPの発現が調節され,ヘプシジン(hepcidin)の合成・分泌が起こる.血中に出たヘプシジンはクッパー細胞(Kupffer cells)と腸上皮細胞(enterocytes)のフェロポルチンと結合して内部化し,分解される.膜上に残存するフェロポルチンにより一部の鉄が汲み出される(hephaestinは膜フェロキシダーゼ).通常の鉄過剰(右側の腸上皮細胞上段)では,血液中のトランスフェリン(transferrin;Tf)はほぼ飽和されている.大量に分泌されたヘプシジンはクッパー細胞と腸上皮細胞のフェロポルチンと結合して内在化してその機能を失活させるため,鉄はほとんど血流中に排出されない.しかし,TfR2,HFEとHIVの変異蛋白(右側の腸上皮細胞下段)は,ヘプシジンの分泌を抑制して2つの細胞系のフェロポルチンを強発現し,鉄を汲み出す.鉄欠乏となった腸上皮細胞は,DMT‐1(divalent metal transporter1)を介して鉄を吸収し,速やかに血流中に出す.飽和したトランスフェリンに結合できない鉄はアルブミン(albimin)などにより肝細胞やほかの鉄貯蔵細胞に運ばれる.このヘプシジンによる調節障害の程度により古典型と重症な若年型になると推定されている.鉄の汲み出し蛋白に機能障害のあるフェロポルチン病ではクッパー細胞など網内系に鉄が蓄積し高フェリチン血症をきたす.
Federらによって発見されたHFEはヒト染色体 6p21 上に存在する.その蛋白は343 個のアミノ酸からなる1).HFEはTfR1と強い親和性をもち,腸管上皮では,HFE・TfR1複合体は細胞膜表出するがC282Yが入るとその機能が阻害され鉄吸収の持続的亢進になるとの仮説が提唱された10,11).その後の研究からHFEは肝細胞にも発現しており12),TfR2とHJVと連携してHAMPによるヘプシジンの産生を調節する―すなわち,これらの蛋白の遺伝的障害ではヘプシジンの分泌が障害され,フェロポルチンの発現を抑制しないため,鉄の吸収,利用が亢進するとの仮説が有力視されている13).
2004年,Papanikolaouらによってヒト染色体1q21に若年性のHHの変異が存在することが発見され,HJVと命名された8).その蛋白は肝臓,心臓や骨格筋に細胞膜結合受容体として発現しており,426個のアミノ酸からなり,HFE,TFR2とともにヘプシジンの発現調節因子として鉄代謝において重要な働きをしている.
2000年,Donovanらは胎盤と腸上皮の血管極にある鉄の排出蛋白,ferroportin1(フェロポルチン)を同定した4).翌年,Montosiらはこのヒト染色体2q32にあるSLC11A3(後にSLC40A1と改名)の変異により優性遺伝の鉄過剰症になることを報告した5) .網内系細胞と腸管上皮で鉄の汲み出しを担い,二価鉄イオンは膜フェロキシダーゼにより三価鉄イオンとなりトランスフェリン(Tf)に渡る.
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肝実質細胞への強い鉄蓄積を伴う肝硬変と,膵臟ラ氏島への鉄蓄積により糖尿病が50歳前後で出現する白人の古典的なHHの多くはC282Y/C282YないしC282Y/H63Dをもつ.HFE‐HHに相当する日本人の1症例が報告されている14).患者は65歳の女性で,肝腫大と下肢に褐色の色素沈着を認めた.血清フェリチンは5,660ng/mLと著増し,生検肝組織は炎症に乏しく,中等度の線維化と肝細胞と類洞壁細胞に強い鉄蓄積をみた.糖負荷試験で耐糖能異常がみられた.
白人社会での疫学調査から,C282Y/C282Y保有者の鉄過剰の幅はきわめて広いことが判明している.血清フェリチンが1,000ng/mL,Tfの鉄飽和度が50%を越えると症状が現れる.非特異的な自覚症状のほか,皮膚の色素沈着,関節痛,無月経,インポテンツ,心不全,不整脈,糖尿病の諸症状が出る.肝腫大は腹水,肝不全,肝細胞癌を伴うことがある.肝臓では肝細胞性の鉄蓄積と種々の線維化がみられる.肝臓のnon‐hem鉄は10,000μg/g dry weightに達する.
わが国にも若年発症のHHはあるが,遺伝子解析の終了した症例の報告はない.多分,HAMPやHJVの機能欠損で,腸管からの鉄吸収が持続するため,30歳前後で発症する.女性では鉄蓄積による性腺の発育不全と肝代謝能の低下により生理不順となり,鉄蓄積に拍車がかかるものと思われる.
欧米白人の若年型のHHの多くはHJVに変異をもち,HAMP‐HHは少ない.わが国には,HAMP‐HHの報告はなく,HJVに変異のある2家系の3例が知られている15).2名は兄妹例で,兄は51歳で心不全を発病し,剖検でHHの3主徴が確認された.その妹は,兄と同じ発病年齢になり鉄過剰を伴う肝硬変が確認された.この女性には子どもがなく,男性例はともに子どもに恵まれていた.いずれも菜食主義者ではない.これらの症例で,重症型の遺伝子異常であるにもかかわらず臨床病型が軽症化した理由は不明であるが,1例(48歳の男性)はヘリコバクター・ピロリの感染者であった(表1).
欧米では,HFEにほかの鉄輸送関連蛋白の遺伝子変異の合併で若年型になることが報告されているが,HFE‐HHの頻度の低いわが国ではきわめてまれであろう.
| 患者 | 臨床症状 | 肝組織と鉄蓄積 | 血清フェリチンと飽和率 | 遺伝子解析 | 文献 |
|---|---|---|---|---|---|
| 48歳,男性 | 糖尿病, 色素沈着 |
肝硬変, 鉄は肝細胞 |
6,115ng/mL, 94.8% |
D249H, homozygous |
15) |
| 51歳,男性 | 心不全,糖尿病,色素沈着 | 肝硬変, 鉄は肝細胞 |
2,280ng/mL, 95.5% |
Q312X, homozygous |
15) |
| 51歳,女性 | 糖尿病,色素沈着 | 小葉改築, 鉄は肝細胞 |
4,278ng/mL, 95.8% |
Q312X, homozygous |
15) |
わが国で比較的多いと考えられる遺伝子病型である.確認された3家系の患者はいずれも古典的なHHであった(表2)16,17).AVAQ594‐597delはイタリアで報告されたものと同じであり,世界的な広がりを示唆する.一方,L490RとV561Xはまだ報告のないものである.L490Rをもつ男性患者について血清中のヘプシジン25を測定した.今回の検査時(49歳),瀉血は不十分で,血清フェリチンは1,057ng/mLと高い値を示したが,ヘプシジンは4.9AUときわめて低値であった(正常値は30AU以下).
| 患者 | 臨床症状 | 肝組織と鉄蓄積 | 血清フェリチンと飽和率 | 遺伝子解析 | 文献 |
|---|---|---|---|---|---|
| 50歳,男性 | 肝機能障害 耐糖能は正常 |
小葉は改築, 鉄は肝細胞と胆管 |
2,485ng/ mL,94.5% |
AVAQ594‐597del, homozygous |
16) |
| 47歳,男性 | 肝機能障害,色素沈着 正常耐糖能 |
鉄は小葉辺縁部の 肝細胞と胆管 |
4,400ng/ mL,90.7% |
AVAQ594‐597del, homozygous |
16) |
| 53歳,女性 | なし(家族調査) 正常耐糖能 |
鉄は門脈周囲の肝細胞と胆管 | 1,470ng/ mL,93.2% |
AVAQ594‐597del, homozygous |
16) |
| 41歳,男性 | 高脂血症,関節痛 耐糖能低下 |
肝硬変, 鉄はすべての肝細胞 |
2,040ng/mL, 93.6% |
L490R, homozygous |
17) |
| 58歳,男性 | 糖尿病,色素沈着 | 肝硬変, 鉄はすべての肝細胞 |
1,982ng/mL, 88.7% |
V561X, homozygous |
17) |
この鉄沈着は,主に網内系でその負荷も軽微(血清フェリチン450ng/mL以上,鉄飽和度50%以上)であることが特徴とされた.その後,特定の変異遺伝子では肝細胞にも強い鉄蓄積を認める症例が報告され18),遺伝子変異により臨床病型が異なる可能性が指摘されている.わが国では典型的なフェロポルチン病と19),肝細胞とクッパー細胞に強い鉄蓄積を示す病型20)が報告されている.
われわれの発端患者は19),生来健康な43歳の男性で,偶然の機会に822ng/mLの高フェリチン血症がみつかり,肝生検を受けた.肝に線維化はなく,鉄蓄積はクッパー細胞に限局していた.その後,6年の経過観察では鉄過剰症の兆候はない.父親(79歳)は,高脂血症と甲状腺機能低下症があり,血清フェリチンは2,283ng/mLと高値であった.遺伝子解析では発端者の変異は父親由来であった.父親に対する第2回検査でも,心臓,肝臓,脳などの臓器障害の出現はない.血清ヘプシジンはフェリチンとよく相関していた.これはヘプシジンの尿中排泄をみた成績と同じであった21)(表3).
| 検査時年齢 | 血色素(g/dL) | 血 清 | 鉄飽和度(%) | 文献 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| アルブミン (g/dL) |
フェリチン (ng/mL) |
ヘプシジン* (AU) |
|||||
| 発端者男性 | 43 | 14.1 | 5.1 | 822 | nd | 24.8 | 19) |
| 49 | 13.4 | 4.7 | 696 | 50.6 | 28.6 | ||
| 父 親 | 79 | 14.2 | 4.5 | 2,283 | nd | 62.1 | 19) |
| 81 | 14.4 | 4.4 | 2,636 | 127.2 | 88.3 | ||
*:正常値:30AU以下,nd:検査なし.
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従来から,肝細胞や心筋細胞など実質細胞性の鉄蓄積とクッパー細胞など網内系の鉄蓄積には病態の差異とともに毒性にも違いのあることが指摘されていた.若年型のHJV‐HHとHAMP‐HHはもちろんのこと,古典的病型を呈するHFE‐HHやTfR2‐HHの未治療例では,実質細胞の障害と間質の過形成が起こるため,機能障害を発現すると同時に,形態的変化をもたらす.一方,網内系に選択的な鉄蓄積を認めたわれわれのフェロポルチン病では,高齢になっても鉄毒性の発生を示唆する兆候に乏しい.本症の高フェリチン血症は,主に網内系の鉄蓄積を反映している.
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HHの治療は臓器障害の発生源である鉄過剰状態の解消と除鉄後に残存した臓器の機能障害への対応である.鉄の排除は瀉血によるのが原則である.欧米白人患者に対する治療基準の1つとして,血清フェリチン50~60ng/mL以下に維持することが提唱されている.健常人に対する献血の許容基準は12ng/mLである.すなわち,これを下回る人が献血すると,貯蔵鉄がないためHb濃度の回復が遅延する.具体的には個人のQOLの許す範囲で貯蔵鉄を排除すべきであろう.若年型のHHでは伝導障害や心筋障害による心不全はジギタリスを中心にした通常の治療に抵抗するので,強力な除鉄治療を施行し鉄による可逆的障害を早期に排除する.必要であればペースメーカーを入れる.性腺機能低下(インポテンツや生理不順・不妊)の一部は除鉄により回復するが,不十分であれば補充療法をする.I型糖尿病も鉄の排除でコントロールが容易になるかもしれない.除鉄により肝臓の機能は改善されるが,線維化の進行した症例では肝細胞癌の発生は回避できない.定期的な腹部画像診断は必要である.関節痛は除鉄後も残存するので,鎮痛剤で対処する.メシル酸デフェロキサミン(点滴静脈ないし持続注入)は造血障害(瀉血後の貧血を含め)や低アルブミン血症を伴う症例に補助治療として併用する.経口キレート剤も同様の適応となろう.安全性が確認されれば,維持治療期の基本治療になり,食事制限の緩和に役立つかもしれない.
References
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場