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Iron Overloadと鉄キレート療法

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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長  堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授  押味 和夫

<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授  大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授  小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授  高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授  中尾 眞二

第2章 鉄過剰症の病態と診断

2 先天性疾患における輸血依存性鉄過剰症の病態

白土基明1),牟田耕一郎2)

1:原土井病院内科
2:九州大学大学院医学研究院病態制御内科学

サマリー

 貧血をきたす先天性疾患に対して輸血が頻回に行われると,鉄過剰症を生じ得る.代表的な疾患はサラセミアと遺伝性鎌状赤血球症である.サラセミアでは,重症型は早期から,中等症においても経過とともに鉄過剰を生じ,これには輸血とともに,腸管での鉄吸収亢進も関与している.遺伝性鎌状赤血球症では,血管内での赤血球の鎌状化による溶血性貧血に対して,あるいはcrisisと呼ばれる急性増悪の際に,HbS含量を下げ,血液粘稠度を増加させないために輸血が行われる.
 鉄過剰により肝臓,心臓,内分泌器官が主に障害され,肝硬変,心不全,不整脈,糖尿病などが合併する.血清フェリチン値が1,000ng/mLとなると,多くの例で臓器への鉄沈着が著明となってきているため,キレート療法の開始を考慮すべきである.
 キレート薬として,デフェロキサミンが従来用いられてきたが,連日長時間にわたる投与を必要とするため,デフェラシロクスなどの経口薬が開発されている.血清フェリチン値500~1,000ng/mLに維持するように投与量を調節する.

はじめに

 ヘモクロマトーシスは鉄の過度の貯蔵により組織に病的変化をきたす疾患の総称であり,遺伝子異常に基づく遺伝性ヘモクロマトーシスと,二次性ヘモクロマトーシスに分類される.二次性ヘモクロマトーシスは多くの疾患に伴って出現するが,概してこれらは貧血を伴い,それに対する輸血により発症する1)表1).
 これら二次性ヘモクロマトーシスをきたす先天性疾患のうち,遺伝性球状赤血球症などの赤血球膜異常に基づく貧血では,頻回の輸血を必要とされる症例では摘脾が行われ,ほとんどが輸血依存から脱するため,鉄過剰症に至らない.
 赤血球酵素異常に基づく貧血でも,摘脾の奏効しない重症のピルビン酸キナーゼ異常症など一部を除いて輸血依存が持続することはない.
 一方,ヘモグロビン異常に基づく貧血においては有効な治療がなく,しばしば長期にわたり頻回の輸血を必要とする.代表的疾患はサラセミアと遺伝性鎌状赤血球症であり,長い経過が予想されるため,鉄過剰症への対策を要する.これらの輸血依存性につき,まず個別に概説する.

表1 二次性ヘモクロマトーシスの原疾患
 A.遺伝性疾患
 赤血球膜異常
  ・遺伝性球状赤血球症
 赤血球酵素異常
  ・ピルビン酸キナーゼ欠損症
  ・グルコース6リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症
 ヘモグロビン異常
  ・サラセミア
  ・遺伝性鎌状赤血球症
  ・congenital dyserythropoietic anemia(CDA)
  ・鉄芽球性貧血(ALAS欠損症)
 
 B.後天的疾患
  骨髄異形成症候群(MDS)
  その他  出血以外に頻回の輸血を必要とする貧血

1

サラセミアの病態

 サラセミアは,ヘモグロビン合成の過程で遺伝子欠損あるいは発現異常のため,ヘモグロビンを構成するグロビン鎖間の合成不均衡を生ずる疾患である.小球性低色素性貧血を呈し,血液像は赤血球大小不同,標的赤血球の出現をみる2)
 αサラセミアはグロビンα鎖の合成低下であり,α鎖はHbA(α2β2)とHbF(α2γ2)の両方に含まれるため,αサラセミアは胎児期に発症する.黒人に多く,25%がこの遺伝子異常をもつといわれる.
 βサラセミアはグロビンβ鎖の合成低下で,サラセミアでは最も多い.すべての地域,ほとんどの人種にみられるが,特に地中海沿岸で重症型の頻度が高い.ほかに東南アジア,黒アフリカ,米国(地中海地方に先祖をもつ黒人種)でも,多くみられる.
 β鎖はHbAのみに含まれるため,出生後に発症する.β鎖の代わりにδ鎖やγ鎖が合成され,HbA2(α2δ2)やHbFの値が上昇する.しかしこれらHbA2やHbFの産生増加は,HbAの産生欠損を補完するには不十分で,赤血球は小球性低色素性を示す.重症サラセミアによる貧血はヘモグロビン合成異常によるばかりでなく,骨髄内での赤芽球の形成不全や末梢での溶血のためでもある.過剰なβ鎖が赤血球膜と接触すると沈降して,赤血球を脆弱にする.
 βサラセミアの遺伝形式は常染色体相互優性である.ヘテロでは血液検査上の異常が認められるのみである.ホモではこの欠損により臨床症状を示すが,患者によってその重症度は異なる.
 重症型サラセミアでは,高度の貧血のため,頻回の輸血を必要とし,鉄過剰症を生ずる.体内鉄量の増加は遺伝性ヘモクロマトーシスの経過と同様に急速である.中間型サラセミアでは,重症型よりも多くのβグロビンが産生されるため,症状は軽く輸血もそれほど頻回ではない.しかし,実際には進行性の鉄過剰症がみられ,これは消化管からの鉄吸収が3~4倍に増加しており,鉄必要量を上回っていることが原因である.
 サラセミアモデルマウスを用いた検討では,重症型(th3/th3マウス),中間型(th3/+マウス)ともに,腸管からの鉄吸収は増加しており,貧血の程度や赤血球産生障害が強いほど,鉄吸収は亢進しており,輸血を受けると低下を示した3)
 近年,鉄代謝に重要な役割を果たす分子が次々に同定されている.そのうちヘプシジンは肝臓で合成され,腸細胞やマクロファージに発現するフェロポルチン1と結合しその働きを阻害することにより,腸細胞からの鉄吸収やマクロファージから血中への鉄放出を抑制する.鉄過剰時には肝臓でその発現が高まり,鉄吸収を抑制する.
 ところが予測に反して,特に重症型モデルマウスにおいて,ヘプシジンをコードする遺伝子HAMP1の発現が低下していることが示されている.ヘプシジンの減少は鉄吸収量を増加させる.これは遺伝性ヘモクロマトーシスのなかにヘプシジン欠損の症例があることと合致している4).サラセミアにおけるヘプシジン発現低下の詳細な機序はいまだ明らかではない.

2

遺伝性鎌状赤血球症の病態

 遺伝性鎌状赤血球症は,β鎖のGlu6がValに置換している異常βs鎖と正常αA鎖よりなる4量体αA2,βs2であるHbSにより鎌状赤血球を生じ,これによって特徴的な臨床症状や所見をきたす遺伝性疾患である5)
 HbS遺伝子異常をもつ疾患をすべてまとめてHbS症(HbS diseases)と呼ぶ.鎌状貧血症候のおよそ半数がHbS/Sによるものであるが,HbS症のすべてが末梢血液に鎌状赤血球が出現するわけではない.ヘテロ接合型保因者(sickle cell trait)では,共存する正常HbAがHbSの凝集を阻害するため,酸素分圧がきわめて低い状態でなければ鎌状赤血球は出現しない.よって,個々の赤血球が HbSを全ヘモグロビンの50%以上含んでおり,HbF含量が少ないHbS症のみに鎌状赤血球の出現を認める.HbC,HbDなどはHbSに近い性質をもち,HbS/C,HbS/D鎌状貧血症候(sickle cell disease)が発現する.また,HbS/βサラセミアではHbAの合成が抑制され,HbSの含量が50%以上となるため鎌状貧血症候を起こしやすい.
 HbS症は,アフリカの熱帯地方に最も頻度が高く,ギリシャ,イタリア,イスラエル,アラブ,アメリカ,南アメリカの西部と広く分布している.わが国では,黒人との混血児以外のHbS症の報告はない.
 HbSはオキシヘモグロビンの形では正常HbAと同様に溶存できるが,酸素を放出しデオキシヘモグロビンになると,HbS同士が結合してゲル化を生じ,次第に結合が伸びて重合し,HbS分子の連鎖を形成する.2つの連鎖が単位となり1本の紐状の連鎖に伸び,この紐状の連鎖が7個集まり,全部で14個の連鎖からなる束ができ(tactoid形成),鎌状の赤血球(sickle cell)を形成する.鎌状赤血球は再び肺で十分に酸素化されると,HbSの凝集が溶けて正常の形態に戻る.しかし,赤血球内でオキシヘモグロビンSおよびデオキシヘモグロビンSと相互に変化し,円盤状から鎌状の形態変化を繰り返しているうちに,不可逆的に鎌状変形をきたす.鎌状赤血球は,血液粘度を高め柔軟性を失い浸透圧脆弱性を高めるとともに,毛細血管を閉塞し主要臓器に多発性梗塞を起こし,また溶血性貧血を生ずる.
 骨髄で赤血球の鎌状変形が起こり,血流がうっ滞すると,激しい疼痛発作をきたす(painful crisis).また,ヒトパルボウイルスB19感染を伴うと,骨髄での赤芽球生成が障害され,赤芽球無形成となる状態が起こる(aplastic crisis)6).こうした発作時には貧血の改善と,HbS含量低下による血液粘稠度の低下を期待して,大量の輸血を行うことがある.
 HbFはHbSと競合的にHbAと結合し,HbSの重合を阻害するため,HbFの産生を促す薬剤が治療に応用されている.ハイドロキシウレアは,ほとんどの患者においてHbFを増加させ,約3分の2の患者に疼痛発作および輸血頻度の減少を認めるが,その場合でも効果不十分や一過性の場合が多く,やはり度重なる輸血療法により鉄過剰症が生じてくる7)

3

鉄過剰症における臨床症状

 体内総鉄量は3~4gであり,通常は吸収排泄とも約1mg/日で半閉鎖的にバランスがとれている.輸血用赤血球には1mLあたり約1mgの鉄が含まれており,排泄される量ははるかに少ないため,原疾患によらず,輸血を繰り返し受けると,結果的に多くの鉄が輸血のたびに体内に蓄積し,鉄過剰症を生じる.体内の鉄量が増加し,トランスフェリンの結合能を超え,非蛋白結合鉄が生じると,活性酸素が産生され,臓器障害が起こる.特に肝臓,心臓,内分泌器官,皮膚が標的となりやすい(表24).肝臓は鉄貯蔵の主部位であるため,早期より肝線維化が生じ得る.その後,他臓器にも鉄沈着が及ぶが,心臓においては,心室壁,心室中隔,乳頭筋,心外膜などに沈着しやすく,少量の非結合鉄でも活性酸素を生じて障害を受ける8).慢性肺高血圧や心筋炎は鉄過剰による心不全を悪化させるため,鉄沈着の程度と心筋線維化に不均衡を生じることがある.また,膵臓においてはβ細胞へ沈着し,インスリン分泌低下を招く.肝臓や筋肉に鉄が沈着することにより,インスリン低抗性の増大をきたし,糖尿病を発症する.
 これらの合併症のうち,致命的合併症となり得るのは,肝硬変および肝細胞癌,心不全や不整脈である.重症型サラセミアでは,キレート療法を併用しない場合,輸血療法を開始後10年以内にこれらの致死的合併症が生じるとされる9).輸血を繰り返し行っている患者に,左心駆出率50%未満,肝酵素異常,肝線維化,耐糖能低下がみられた場合,鉄過剰症の発症を考えるべきである.

表2 鉄過剰症に伴う合併症
臓器 合併症
肝臓
心臓
膵臓
下垂体
甲状腺
関節
皮膚
肝硬変,肝細胞癌
心筋症
糖尿病
性腺機能低下
甲状腺機能低下
関節痛
色素沈着

4

鉄過剰症の診断

 鉄過剰によるこれら合併症を回避するために鉄キレート療法が必要となるが,副作用やコンプライアンスを考慮し,その開始時期は慎重に決められなければならない10)
 実質臓器に沈着した鉄の量を評価する方法のなかでは肝生検が最も信頼され,組織への鉄の沈着とともに,線維化や肝硬変の程度も知ることができる.しかしこれは侵襲的であるため,繰り返し行うことは難しい.そこで,superconducting quantum interference device(SQUID)やMRIを用いた方法で代用することが検討されている.SQUIDは感度が良好であるが,実施できる施設が少ないため,MRIによる評価が試みられている.心臓のMRI T2*測定は心室拡張能と相関していたが,より早期の心合併症を検出できたと報告されている.心臓においてT2*が20ms以下に短縮している例は中等度以上の鉄沈着が起こっているとされる11).また,肝臓においてMRIを用いたproton relaxation rate(R2)の測定により,鉄沈着の程度を予測できたとの報告もみられる12).しかしMRIを用いた評価の問題として,機器ごとのばらつきが多いため標準化が難しく,施設間の比較には慎重を要することがあげられる13).また,心臓と肝臓のT2*が相関しない例も多く,鉄沈着が全身一様でないことを示唆しているため,臓器ごとの評価が望まれる.
 血清フェリチンは体内鉄貯蔵量の1%にすぎないとされ,必ずしも正確に体内鉄量を反映しているとはいえないものの,最も簡便なため,現在のところ鉄量の評価に用いられている.ただし,血清フェリチン値は輸血とは無関係に慢性に上昇する場合(スティル病,血球貪食症候群,悪性腫瘍など)があり,その場合は解釈に注意を要する.

5

鉄キレート療法の実際

 二次性ヘモクロマトーシスの場合,鉄過剰状態となっても,貧血を通常伴うため,瀉血による治療ができず,鉄キレート療法が中心となる.
 重症型サラセミアに対する輸血による鉄過剰症の場合,血清フェリチン値2,500ng/mL以下にコントロールされた患者の3分の2は,有意に重篤な心臓の合併症を生じる可能性が低いと報告されている14).なお,The Thalassemia International Federation guidelineは血清フェリチン値を約1,000ng/mLにすることを推奨している.
 鉄キレート薬は,わが国ではデフェロキサミン(DFO)のみが認可されている.DFOは高い鉄除去能をもつが,半減期が数分ときわめて短いため,ポンプを用いた長時間にわたる皮下投与を5~7日/週行わなければならず,患者への負担が大きい.
 経口薬としては,これまで海外でデフェリプロンが用いられてきたが,DFOに比べてキレート効果が低いこと,無顆粒球症や腹部症状などの副作用があることが問題視されている.しかし,デフェリプロンは細胞膜を通過し細胞内鉄をキレートできるため,DFOとの併用療法が試みられている.それは,デフェリプロンが鉄を細胞外に汲み出し,DFOがそれを受け取って排泄させるという原理(shuttle hypothesis)に基づいている.
 最近,半減期が長く副作用の少ない経口薬の開発が盛んに行われている.デフェラシロクスは半減期8~16時間と長いため,1日1回の服用で効果が期待でき,副作用も軽度の腹部症状やクレアチニンの上昇などである.輸血依存性βサラセミア患者に対するDFOとの無作為比較試験では,20あるいは30mg/kg/dayの投与を受けた群ではDFO連日投与と同等の効果がみられ,20mg/kg/day投与群で血清フェリチン値の安定化,30mg/kg/day投与群で低下がみられた15).すでに欧米で認可され輸血による鉄過剰症に対して,一般的に用いられている.
 サラセミアの唯一の根治療法として同種造血幹細胞移植が行われている.Lucarelliらの214例の報告では,患者を肝腫大の程度,肝生検での門脈域の線維化の有無,移植前のキレート療法の有効性により層別化し,class1,2の低リスク患者は大変良好な結果であったが,class3の患者は約30%の拒絶が認められた16).最近,前処置が工夫され,17歳以下の患者の生存率は93%,拒絶8%まで改善している.いずれにしても,移植を考慮する患者は早い時期にキレート療法を開始し,鉄過剰による組織障害をできるだけ少なくすることが移植後の予後を改善する.

おわりに

 慢性貧血を伴う遺伝性疾患をもつ患者をみる際には,輸血が長期頻回にわたることが予測される場合,鉄過剰症の発症を念頭においた管理が必要とされる.その病態を理解し,適切に輸血頻度およびキレート療法の開始時期を決めなければならない.

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16) Lucarelli G, Clift RA, Galimberti M et al:Marrow transplantation for patients with thalassemia:results in class 3 patients. Blood 87:2082‐2088, 1996

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