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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
澤田賢一
秋田大学大学院医学研究科内科学講座血液・腎臓内科学分野
鉄はごく一部のバクテリアを除くすべての生物にとって必須の元素で,多くの酸化還元反応に関与している.しかし,生物が体内に必要量の鉄を確保するのは容易ではない.そのため生物は鉄を積極的に吸収する機構と同時に体内の鉄の濃度やその化学形態を調節する機構ももっており,哺乳類における血清中の遊離鉄濃度は10-26Mときわめて低値で,かつ厳密に調節されている.したがって,ヒトに感染した細菌や真菌などの病原体は常に鉄欠乏状態にさらされている.これらの病原体は,鉄欠乏条件下で有効に鉄を摂取するための鉄キレート分子シデロフォアを発達させており,人はそれを捕捉する分子リポカリン2でシデロフォアに対抗している.リポカリン2の発現は細菌感染のみではなく炎症によっても活性化される.一方で,鉄の吸収と供給はヘプシジンによっても厳密な制御を受けている.ヘプシジンは,鉄過剰のみではなく感染や炎症によっても増加し,その主な作用は腸管からの鉄吸収の抑制およびマクロファージにおける鉄の貯留と放出抑制である.炎症におけるこれらの鉄制御蛋白質の発現増加は,本来は細菌に対する防御や鉄代謝調節を目的としたシステムが共進化の過程で環境ストレスにも対応するようになったものと推定される.
キーワード
■シデロフォア ■リポカリン2 ■ヘプシジン
■鉄 ■炎症
鉄はごく一部のバクテリアを除くすべての生物にとって必須の元素で,多くの酸化還元反応に関与している.なかでも呼吸反応,酸素運搬など,地球上の生命活動の根幹を支える生化学反応は鉄がなければ進行させることができない.鉄は地球の地殻中で4番目に多く存在する元素である.しかし,豊富に存在するにもかかわらず,生物が体内に必要量の鉄を確保するのは容易ではない.鉄は酸素の多い条件では三価鉄として存在するが,これは速やかに難溶性のいわゆる鉄錆になり,生物は吸収・利用することができなくなる.さらに中性以上のpHになると溶解性はさらに低下する.一方で鉄は凶器ともなり,細胞にとって生理的に活性な二価鉄は過酸化水素と反応してラジカルを発生させ,細胞に酸化ストレスを引き起こす.そのため,生物は鉄を積極的に吸収する機構と同時に体内の鉄の濃度やその化学形態を調節する機構ももっており,哺乳類における血清中の遊離鉄濃度は10-26Mときわめて低値で,かつ厳密に調節されている.
したがって,ヒトに感染した細菌や真菌などの病原体は常に鉄欠乏状態にさらされている.これらの病原体は,鉄欠乏条件下で有効に鉄を摂取するための特別な装置を発達させており,ヒトもまたそれに対する対抗手段を発達させている.鉄と炎症との関係のなかで最も重要なことは,炎症による鉄代謝の制御である.炎症はさまざまな急性期蛋白質やサイトカインの産生を通して病原体への鉄の供給を阻害し,その増殖を抑制して生体を防御する.近年,炎症を介する鉄代謝制御としてリポカリン2・システムとヘプシジン・システムの両者の知見が急速に集積されている.本稿では,まず,細菌の鉄取り込み分子であるシデロフォア(siderophore)とそれに対する生体側の主要な防御機構であるリポカリン2・システムを紹介する.さらに,ヘプシジン・システムについて概説し,鉄と炎症について最近の知見を紹介する.
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細菌や真菌の鉄キレート分子であるシデロフォア(siderophore)は,鉄欠乏環境下で合成され,微量の鉄を微生物の膜レセプターを介して効率よく取り込む際の“運び屋”としての働きをもつ.また,成長因子や発芽因子,なかには抗生物質でもあるシデロフォアも知られている.シデロフォアを産生する微生物は腸内細菌,種々の動植物の病原菌,土壌細菌,藍藻(藍菌),真菌,高等藻類などに広く分布している.細菌ではエンテロバクターのエンテロバクチン(enterobactin,エンテロケリン(enterochelin)とも呼ばれる),マイコバクテリウムのミコバクチン(mycobactin)などがあり,真菌では黒穂菌やある種の酵母のフェリクロムもシデロフォアの1種である.シデロフォアは,鉄に配位する部分の構造にもとづいていくつかのグループに分けられている1,2).
ほとんどのシデロフォアは水溶性で周囲に分泌されるが,全く分泌されないで微生物のなかにとどまっているものもある.また,ほとんどのシデロフォアは鉄を微生物に受け渡したあとにリサイクルされるがエステラーゼ分解されるものもある.エンテロバクチンは大腸菌やサルモネラなどのグラム陰性細菌で最初に発見されたカテコール化シデロフォアで,三価鉄[Fe(III)]に対する親和性は10-49Mときわめて高く,この値はEDTAなどの合成鉄キレート剤(・10-25M)をはるかに凌いでいる.そのため,エンテロバクチンは生体内ではFe(III)と結合したトランスフェリン(transferrin;Tf)やフェリチン,ラクトフェリン,また,EDTAのような鉄キレート剤からでさえ鉄を奪い取ることができる1).
エンテロバクチンは,鉄をキレートした後,細菌表面のシデロフォア受容体に結合し,細胞内に取り込まれたのち,エステラーゼで分解される.これまで少なくとも4種類のシデロフォア受容体(siderophore
iron transporter;SIT)が同定されている.細菌や真菌同士の鉄を介した生存競争も熾烈である.例えば,ある種の細菌は,真菌のシデロフォアに対する受容体を合成して真菌から鉄を奪い取る1,2).また,子嚢菌出芽酵母のSaccharomyces cerevisiaeの場合は,驚くべきことにシデロフォアを自ら合成することはなく種々のシデロフォア受容体をもつ.その結果,周囲の細菌や真菌が産生したシデロフォアを取り込んで生存することができる1).生体のなかにおいて鉄の濃度は厳密に規定されていること,また細菌はそのような環境でも鉄を取り込む能力を進化させていることから,細菌感染を起こしている患者への鉄剤投与が感染症の増悪を促進することは容易に想像でき,またこれは臨床的にも証明されている.
図1 リポカリン2・システム

(Adapted and translated
with permission. Copyright, (2002), Cell Press)
(文献9より改変引用)
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Tf先天性欠損症やTf欠損マウスでは貧血を呈する一方で,肝臓や脾臓などの鉄過剰を伴う.同様に,遺伝性ヘモクロマトーシスにみられるようにTfの鉄結合能を超える鉄が血漿中に入っても,実質臓器に取り込まれて血漿中の鉄は取り除かれる.このことは,細胞内への鉄輸送システムにTf非依存性の経路があることを示している.さらに,Tf受容体欠損マウスは胎生早期に死亡するが,いくつかの臓器の発達が認められることから,第二の鉄取り込みシステムの存在が強く推定されていた3).
リポカリン(lipocalin)は160~180個のアミノ酸からなり,遺伝子配列よりはむしろ構造的に関連性のある蛋白質の一群で,これまでは主にレチノールやプロスタグランジンなどの低分子物質の輸送に関与する分子と考えられてきた.構造的には水和性分子に対する結合能を有しており,そのほかの働きとしてアポトーシスや免疫調節,および増殖制御など幅広い細胞機能との関連が報告されてきた1).このうち9番染色体の長腕(q32‐34)にコードされるリポカリンの一群があり,そのうち5つが炎症急性期蛋白質として報告されている.これらはイムノカリン(immunocalins)とも総称され,α1‐acid glycoprotein,α1‐microglobulin, glycodelin,リポカリン2(lipocalin 2,neutrophil gelatinase‐associated protein(NGAL),human neutrophil lipocalin(HNL),24p3,SIP24,siderocalinとも呼ばれる),complement factor C8 γ‐subunitが含まれる.このうち,リポカリン2は分子量25kDaの糖蛋白質であり,その別名が示すように好中球顆粒に含まれる.急性のウイルス感染と細菌感染を鑑別する上で鋭敏な指標となることや,癌の増殖に伴って増加することが知られていた4).
2002年,Goetzらはリポカリン2が鉄と結合したシデロフォアを補足することを初めて示した.リポカリン2のシデロフォアに対する親和性は10-10Mときわめて高く,シデロフォアがリポカリン2の真のリガンドであることを示唆した5).また,Goetzらと同じグループのYangらは,マウスのリポカリン2によって細胞内に輸送された鉄が,鉄依存性の遺伝子を制御することを示した.また,エンドソームに取り込まれたTfとリポカリン2が異なるpHで鉄を遊離すること,さらに,Tfとリポカリン2ではこれらを取り込む細胞の種類や成熟段階に差がみられることを報告した6).
これらの報告はしばらく,リポカリン2のクローニングの際のアーチファクトであろうと注目されていなかったが,リポカリン2のin vivoでの働きが明らかになったことによって脚光を浴びるようになった.リポカリン2欠損マウスを用いてFloらは,細菌感染において,哺乳類では肝臓や脾臓およびマクロファージでリポカリン2の合成がlogオーダーで亢進することを示した.また,リポカリン2は,細菌のカテコール化シデロフォアであるエンテロバクチンと結合し,鉄を含むシデロフォアを捕捉することによって細菌増殖を抑制することを示した.リポカリン2は,非カテコール化シデロフォア産生細菌やほかの方法で鉄取り込みを行う細菌に対しては影響を与えなかった.リポカリン2の欠損によって,感染マウスはlogオーダーで増幅する細菌増殖によって急速に死亡した.それとは逆に,過剰なシデロフォア投与は,in vitroおよびin vivoにおいてリポカリン2による細菌の増殖抑制に拮抗した.白血球数,腫瘍壊死因子(tumor
necrosis factor‐α;TNF‐α)やインターロイキン‐6(interleukin‐6;IL‐6)濃度は野生型のマウスと比較して差を認めなかった7).
以上,2002年にGoetzらやYangらによって示されたin vitroの現象が,2004年,Floらによってin vivoで確認された.これらのリポカリン2における新知見は,この蛋白質がカテコール化シデロフォアを産生する細菌の増殖を抑制するために必須であり,細菌に対する生体側の主要な防御機構であることを示すものであった.
一方で,細菌側も共進化の過程でリポカリン2に対抗する手段を発達させている.大腸菌によって産生されるエンテロバクチンは水溶性であり,リポカリン2によって捕捉されることで無力化される.しかし,病原性大腸菌やサルモネラはiroA遺伝子にコードされた酵素を用いてエンテロバクチンのグリコシル化と構造変化を起こす.構造変化をきたしたエンテロバクチン,すなわちサルモケリン(salmochelins)は水溶性が低下するためにシデロカインによる認識と捕捉から逃れることができ,鉄の取り込みに対して,より有利になることが明らかにされている8).
リポカリン2は,Tfと同様の経路でエンドソームに取り込まれることがYangらによって示されている6).Tf‐Fe(III)は細胞表面上のTf受容体に結合するが,Tf受容体はさらにクラスリン被覆ピット(clathrin‐coated pit)によって捕えられる.クラスリン被覆ピットがくぼみを深め,細胞膜からちぎりとられてクラスリン被覆小胞(clathrin‐coated vesicle)となり,早期エンドソーム(early endosome)と融合する.TfとFe(III)の親和性は中性pHで10-24Mであるが,早期エンドソームのなかは酸性(pH6.0前後)であり,親和性が劇的に低下して鉄を遊離する.エンドソームにもまた鉄還元酵素が存在し,Fe(III)はFe(II)となってエンドソーム膜に存在する二価の金属輸送体divalent metal transporter‐1(DMT‐1)を介してサイトゾル(cytosol:細胞質基質)へ移行する.Fe(III)を手放したTf‐Tf受容体複合体は,早期エンドソームから脱出して細胞膜に戻る.一方,リポカリン2は後期エンドソーム(late endosome)を経由してさらに強い酸性条件の下でFe(III)を解離する.残ったリポカリン2/シデロフォア複合体は細胞膜へリサイクルされる6,9).リポカリン2の真の受容体はいまだ不明であるが,その候補として低比重リポ蛋白質受容体ファミリーのメガリン(megalin)があげられている10).しかし,メガリンは鉄結合シデロフォアの有無にかかわらずリポカリン2に対して高親和性を示すこともあり,そのほかの受容体の存在も推定されている.
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ヘプシジンについては他稿(2 ヘプシジン)でその詳細が紹介されているので概略に留める.食物中のFe(III)は腸管腔で十二指腸の鉄還元酵素(duodenal
ferric reductase;Dcytb)によって二価鉄[Fe(II)]となり,細胞膜状のDMT‐1を介して細胞内に取り込まれる11,12).Fe(II)は血管腔側に輸送され,鉄を血液中に送り出す輸送体ferroportinを介して血中に移送される.一部はフェリチンとして細胞内に貯蔵され,フリーラジカル産生,細胞毒に働くことが防がれる13).この時,鉄酸化酵素hephaestinはFe(II)を再びFe(III)とすることによってアポTfへ結合させ,鉄の血中への移送を促進する14).TfはFe(III)を2つ結合し,細胞表面のTf受容体と結合する.Tf‐Fe(III)‐Tf受容体複合体は前述したごとく,エンドサイトーシスによって細胞内へ取り込まれ,エンドソームでFe(III)を遊離する.ヘプシジンの主な作用はDMT‐1やferroportinの発現制御を介して消化管での鉄吸収およびマクロファージからの鉄のくみ出しを抑制することにあり,貧血,低酸素でその発現が抑制され,鉄負荷と炎症で発現が増加する.ヘプシジンの増加は,DMT‐1の発現低下およびferroportinの細胞内移動と分解を介して鉄吸収を抑制する15).
一方,鉄と結合する蛋白質はTfのみではない.ラクトフェリン(lactoferrin)は第二の鉄結合分子であり,Tfと同様に2分子のFe(III)を結合する.その働きは細胞に鉄を供給するというよりも,むしろ感染微生物に鉄を渡さないようにすることにある.ラクトフェリンは好中球のアズール顆粒に存在し,顆粒が細胞膜に癒合することによって放出される.ラクトフェリンは,鉄以外にもそのほかの金属やある種の薬剤などの低分子物質,また多糖類や蛋白質,核酸などの高分子物質と結合するが,鉄と結合することにより静菌的役割を果たしていると考えられる16).
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炎症における鉄代謝の特徴は網内系細胞への鉄の取り込み増加と鉄放出の減少であり,感染患者の血清鉄はしばしば24時間以内に低下する.また,急性炎症期の変化として,フィブリノーゲン,セルロプラスミン,ハプトグロビン,CRP,C3などの急性期蛋白質の増加,アルブミンとTfの減少,IL‐6,IL‐1β,TNF‐α,インターフェロン‐γ(interferon‐γ;IFNγ),transforming growth factor‐β(TGF‐β),IL‐8などのサイトカインの増加が起こる17).これらのサイトカインはさまざまな細胞から産生されるが,最も重要な産生細胞は炎症部位の単球やマクロファージであり,1個のマクロファージ内でも複雑なサイトカインネットワークを形成している(図2)18).炎症に伴うこれらの変化が,どのようなメカニズムで鉄代謝に関与しているかはながらく不明であった.近年,微生物に対する生体防御機構としてのリポカリン2の役割およびヘプシジンとその関連分子の発見によって,鉄と炎症の関係は,鉄代謝を制御する炎症性サイトカインの機能として理解しうるようになった.
リポカリン2は好中球顆粒に含まれるが,炎症性シグナルによって上皮細胞にも発現することが明らかにされていた19).すなわち,リポカリン2は細菌感染がなくとも,化学物質や酸素欠乏などで障害を受けた細胞から大量に産生される.また,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte
colony stimulating factor;G‐CSF),IL‐1βでその産生が増加するが,TNF‐αにはその作用はないとされている.臨床的には,慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息患者の喀痰中や関節リウマチ患者の滑膜液中などで増加している.さらに潰瘍性大腸炎患者の病変部でも増加しており,その程度はIL‐8や顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte/macrophage‐CSF;GM‐CSF)の増加と相関している20).IL‐8産生は,鉄を結合していないエンテロバクチンによっても誘導される21).
自然免疫系もリポカリン2の発現に深くかかわっている.Floらは,生体が侵入してくる細菌に遭遇すると,免疫細胞上のToll様受容体(Toll‐like
receptor;TLR)は,TLR4リガンドであるリポ多糖類(lipopolysaccharide;LPS)刺激によってリポカリン2の転写,翻訳そして分泌を誘発し,分泌されたリポカリン2はその後,鉄を含むシデロフォアを捕捉することによって細菌増殖を抑制することを示した.LPSによって誘導されるリポカリン2はmRNAレベルで200倍,蛋白質レベルで20倍であった7).以上から,リポカリン2の産生は,本来細菌に対する防御を目的としたものが,環境ストレスにも対応するようになったものか,あるいは未知のリガンドが細胞内に侵入するのを防ぐメカニズムではないかと推定されている.
近年,IL‐17の標的遺伝子のひとつがリポカリン2であることが明らかになった22).IL‐17は,近年,自己免疫による組織障害の誘導で重大な役割を果たすことが明らかにされている23).その発現亢進は関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,多発性硬化症,気管支喘息患者など,さまざまな自己免疫疾患の血清や標的臓器で認められる.IL‐17はCD4+T細胞から産生され,IL‐17産生CD4+T細胞はTh1,Th2とは異なるサブセットとしてTh17細胞と呼ばれている24).Th17細胞はIL‐17のほか,IL‐6,GM‐CSF,TNF‐α,IL‐10,IL‐22を産生する.IL‐17は,自然免疫に関与する多くのサイトカインを誘導し,それらにはIL‐6,CXCケモカイン,炎症急性期蛋白質,G‐CSFなどがあり,TNF‐αはIL‐7の作用を増強する23).TGF‐βとIL‐6がその初期分化に必須であり,IL‐23がTh17細胞の生存あるいは分化に必要であろうと考えられている25).IL‐6はTGF‐βによるFoxp3陽性制御性T細胞(T regulatory cells;Treg)の誘導を抑制すること,好中球炎症,細胞外細菌の排除に重要であることが明らかになっている26).また,細菌成分のほか,IL‐6とIL‐8がIL‐17産生を促進する.一方で,IFN‐γとIL‐4,IL‐12はIL‐17産生を抑制する23).
炎症との関連において,ヘプシジンはLPSやIL‐6でその発現が増強されるがTNF‐αでは抑制される27).一方で,LPSによって誘導されるTNF‐αとIL‐6はともにhemojuvelinを低下させることによりヘプシジンを増加させ鉄吸収の低下と鉄の放出障害をもたらす28).慢性炎症ではマクロファージによる主要な鉄取り込み経路は,赤血球貪食とDMT‐1を介した鉄吸収である.炎症存在下で産生されるIFN‐γやLPS,およびTNF‐αはDMT‐1の発現を上昇させ,マクロファージによる鉄の取り込みと貯留を増加させる.これらの炎症性刺激は,ferroportinの発現を抑制することによってマクロファージ内への鉄の貯留に働く.その結果,これら網内系細胞からの鉄放出障害が起こる.
図2 炎症に伴うサイトカインネットワーク

急性期炎症性サイトカインであるIL‐1,IL‐6,TNF‐αは単球・マクロファージに作用してG‐CSF,IL‐8,IFN,M‐CSF,GM‐CSFなどさまざまなサイトカイン産生を促す.また,オートクライン機構でその産生を増幅させる.これに対しIL‐4は急性期サイトカインのほとんどの作用に拮抗する.
AP‐1;activator protein‐1,ICAM‐1;intercellular adhesion molecule‐1,IFN;interferons,IL‐1R;IL‐1
receptor,IL‐1RA;IL‐1R antagonist,NF‐κB;nuclear factor‐κ B,PHA;phytohemagglutinin,PGE2;prostaglandin E2,PMA;phorbol myristate acetate,VCAM‐1;vascular cell
adhesion molecule‐1.
(Adapted and translated with permission. Copyright, (1995),
Taylor & Francis)
(文献18より改変引用)
図3 サイトカインネットワークと鉄代謝

実線はリポカリン関連経路,破線はヘプシジン関連経路を示す.
以上のごとく,リポカリン2とヘプシジンの産生制御に関与する個々の炎症性サイトカインは,その多くが両者に対して発現制御を行うとともに,カスケードとしてもネットワークとしても作用する.また,多数のサイトカインがほかのサイトカインや受容体の産生を制御することができることから,鉄代謝は炎症という巨大で複雑なサイトカインネットワークによって制御されているということができる.同時に,自然免疫もまた鉄代謝に深く関与していることが明らかとなったが,その詳細については今後の研究の進展が期待される.
References
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場