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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
佐藤 勉,加藤淳二
札幌医科大学医学部内科学第四講座
近年のアポトーシス研究の展開によって,そのシグナル伝達の分子機構が明らかにされつつある.FasやTNF‐αによって誘導されるアポトーシスは,カスパーゼファミリーによってシグナルされるが,その過程ではreactive oxygen species(ROS)が必須の役割を果たしている.しかしその詳細は不明であった.Fas刺激は,ミトコンドリア膜の透過性亢進によるチトクロームCの放出,これに続くチトクロームC,カスパーゼ9およびApaf‐1の複合体形成を誘導する.われわれはこのApaf‐1を標的としてROSがアポトーシスシグナルを調節している事実を見出した.一方,鉄イオンはエレクトロンドナーとしてROS産生に深くかかわっており,ROSの産生によって上述したアポトーシスシグナルを正方向に調節していると考えられる.実際,鉄キレート剤によってROS産生やカスパーゼの活性化,そしてアポトーシスが抑制されることを確認している.最近,鉄過剰が病態増悪因子となることが注目されているC型慢性肝炎では,ウイルスに感染した肝細胞がFas‐Fas Ligandを介した経路で傷害されるが,除鉄療法はそのアポトーシスシグナル伝達を回避する方向に作用し炎症を鎮静化すると考えている.
鉄は,ほとんどすべての細胞にとって生命維持に必須な微量元素であるが,反面その過剰は細胞傷害を引き起こし,DNA損傷(癌化)も促進することが明らかにされている.その毒性は,鉄が遷移金属としての特性をもつため,エレクトロンドナーとしてreactive
oxygen species(ROS)の産生を触媒し,細胞内にさまざまな酸化ストレスをもたらすことによると考えられている.
一方,アポトーシスは細胞死の本態であるが,近年の研究の進歩によって,そのシグナル伝達の分子機構や生理的・病理的意義が明確になりつつある.また,Fasやtumor
necrosis factor(TNF)によって誘導されるアポトーシスシグナルにおいては,ROSが必須の役割を果たすことが明らかにされている.鉄はROS産生過程において重要な役割を果たしていることから,鉄が病的に増加した状態ではアポトーシスシグナルの伝達が増強される可能性は容易に想像される.鉄過剰によるアポトーシスが病態形成に関与していると推定される疾患には,C型慢性肝炎や一部の骨髄異形成症候群があり,いずれも除鉄療法の有効性が報告されている.
本稿では,最近われわれが見出したFas誘導アポトーシスシグナル伝達経路におけるROSおよび鉄の意義について概説したい.
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これまでわれわれは,劇症肝炎・肝癌自然発症モデルである Long‐Evans Cinnamon(LEC)ラットの肝臓には,銅だけでなく鉄が過剰に蓄積されること,肝細胞死の形態がアポトーシスであることを見出した.また,同ラットを生後6週より鉄欠乏食で飼育すると,肝への鉄蓄積が抑制され,肝細胞のアポトーシスおよび致死的肝炎の発症が抑制されることを明らかにした.興味深いことに,肝癌の発生も完全に予防できたことから,同ラットにおける鉄過剰がアポトーシスのみならず発癌にも関与していることが明らかとなった1,2).さらにわれわれは,C型慢性肝炎(CHC)患者の肝臓には過剰な鉄が蓄積されていること,瀉血による除鉄は肝炎の沈静化や肝発癌の予防に有効であることを報告している3).
一方で近年の報告は,CHCにおける肝細胞傷害の原因のひとつが細胞障害性T細胞(CTL)によるFas誘導アポトーシスであることを明らかにした4).アポトーシス反応はシステインプロテアーゼであるカスパーゼファミリーによって担われるが,同時に細胞内のROSを消去するとアポトーシスが著明に抑制される事実も知られている5).このROS産生に,鉄は電子供与体としてH2O2をより活性の高いOH・へ変換することでかかわっていることから(フェントン反応),鉄がROS産生を介してアポトーシス反応を司っている可能性が推測された.そこでわれわれは,まずFas刺激が誘導するアポトーシスにおいて,ROSがどのようにしてこのシグナル伝達を制御するのか検討した.
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「カスパーゼ」はシステイン残基を活性部位にもち,アスパラギン酸残基のC末端を切断するプロテアーゼの総称である.カスパーゼを介するアポトーシスシグナルは,Fas‐Fasリガンドの系において比較的よく解明されている.Fasリガンドが細胞表面のFas(CD95/APO1)に結合すると,Fasの細胞内ドメインであるDD(death
domain)にFADD(Fas‐associated death domain protein)を介してカスパーゼ8前駆体が結合する.同時に,Fas‐Fasリガンドの三量体形成に伴ってカスパーゼ8前駆体は相互に近接する.この近接効果によってカスパーゼ8の自己活性化が誘導される.活性型カスパーゼ8はカスパーゼ3前駆体を切断・活性化し,活性型カスパーゼ3はAcinus(apoptotic
chromatin condensation induce in nucleus),アクチン,NuMA(nuclear mitotic apparatus protein),ICAD(inhibitor of caspase‐activated DNase)などさまざまな基質を切断する.これらの切断によってアポトーシスに特徴的な形態変化,核クロマチン凝集,DNA断片化が引き起こされると考えられている.現在のところ,カスパーゼによる基質の切断がアポトーシスの本質であると考えられている.
同時に,ミトコンドリアからカスパーゼ3に至るシグナルも明らかにされつつある.さまざまなアポトーシス刺激によってミトコンドリア膜の透過性は亢進するが,このMPT(mitochondrial
permeability transition)に伴って,ミトコンドリア内膜と外膜のあいだに存在するチトクロームCは細胞質へ放出される.チトクロームCはApaf‐1(apoptotic
protease activating factor‐1)と結合し,Apaf‐1はATP依存性にカスパーゼ9前駆体と結合する.これら3者の複合体は重合体を形成し(apoptosome),その結果カスパーゼ9前駆体相互に近接効果が生じる.これによってカスパーゼ9の自己活性化が生じ,活性型カスパーゼ9はカスパーゼ3前駆体を活性化する.
Scaffidi Cらは6),ミトコンドリアを介さずにカスパーゼ8からカスパーゼ3に至るルートをType I,カスパーゼ8を介さずにミトコンドリアからカスパーゼ3に至るルートをType
IIと呼び,Fas誘導アポトーシスシグナルを2つに大別した.しかしながら,カスパーゼ8からミトコンドリアへ至るシグナルも解明が進められている.近年,マウスの肝臓からBcl‐2ファミリーのBidが同定された7,8).カスパーゼ8はBidを基質として認識し,切断されたC末端がミトコンドリアからのチトクロームC放出を誘導するという.
諸説を総合すると,Fas刺激はまずカスパーゼ8へ,次いでミトコンドリアからカスパーゼ9,最終的にカスパーゼ3へとシグナルされるものと考えられる.
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TNF‐α(tumor necrosis factor‐alpha)はその名が示すように,腫瘍にネクローシスを導く物質として同定され,その細胞傷害性はROSによって担われると考えられてきた.しかし,TNFR1(TNF
receptor type 1)がFasとほぼ同様な経路でカスパーゼを活性化することが明らかになると,TNF‐αはアポトーシスを誘導する代表的なサイトカインとして認識されるようになった.一方で,カスパーゼがシグナルするFas誘導アポトーシスが,ROSの消去によって抑制されるという知見も示されており5),ROSとカスパーゼの密接な関連が推測されたが,その詳細は明らかでなかった.
そこでわれわれは9),まず,ヒトT細胞性リンパ腫細胞株であるJurkat細胞を対象に,抗酸化薬であるN‐acetyl‐L‐cysteine(NAC)で処理したり,manganese
superoxide dismutase(MnSOD)を遺伝子導入して活性酸素の消去能力を高めると,Fas刺激が誘導するアポトーシスが抑制されることを確認した.次に,細胞をMPT阻害薬であるatractylosideやシクロスポリンAで処理したところ,Fas刺激によって誘導されるROS産生が著明に抑制された.このことから,ROS産生はMPTを契機に惹起されるものと考えられた.その機序としては,電子伝達系の担い手であるチトクロームCが放出されることによって,4電子還元(4H++4e-+O2→2H2O)が1電子還元(e-+O2→O2-)に変換されるためと考えている.
一方で,活性酸素の消去により,カスパーゼ9とチトクロームC,およびApaf‐1の複合体形成が著明に抑制されることを見出した.しかしながら,活性酸素の消去はMPTの誘導やチトクロームCの放出には影響を及ぼさなかった結果から,活性酸素はカスパーゼ9,チトクロームCもしくはApaf‐1を標的としてアポトーシスシグナルを調節しているのではないかと考えた.そこで,それぞれのリコンビナント蛋白を用い,in
vitroで複合体形成やカスパーゼ9の活性化を検出するシステムを導入した.その結果,Apaf‐1蛋白が酸化刺激を受けること,それが複合体形成やカスパーゼ9の活性化に必須であると判明した.おそらくは,酸化刺激によってApaf‐1にS‐S結合が誘導され,複合体形成に必要な立体構造が誘導されるものと推測している(図1).
図1 apoptosomeとROS

(Acehan D et al:Mol Cell 9:423‐432,2002より改変)
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電子供与体である鉄は,H2O2をより活性の高いOH・へ変換するフェントン反応を触媒することでROS産生にかかわる.この事実と上述の知見を考え合わせると,鉄がアポトーシスシグナルにおいて担う役割とはROS産生であると推測される.
実際にわれわれは,TNF‐αと線維芽細胞を用いた系において,鉄キレート剤がTNF‐αによるOH・産生とアポトーシス誘導を抑制する事実を見出した10).さらに,ヒト正常初代肝細胞であるhNheps細胞をFasで刺激する系においても,鉄キレート剤はアポトーシスを抑制した.その際,カスパーゼ3の活性化およびROS産生も同様に抑制されていた(投稿準備中).
さらに,OH・はDNA損傷の原因ともなることから,鉄が肝細胞のアポトーシスのみならず肝発癌の原因となる可能性も想定される.われわれは,これまで31例のCHC患者を対象として瀉血治療を行ったが,この治療によってALTはすべての患者で70IU/L以下となり,16例(52%)では完全に正常化した.さらに,瀉血の前後を比較して,肝組織湿重量あたりの鉄含有量のみならず,ROSによるDNA損傷のマーカーである8‐OHdGが有意に低下していることを見出した3).このデータは上述の仮説を強く支持すると考えている.
図2には鉄がアポトーシスシグナルにおいて果たす役割を模式化した.
図2 アポトーシスシグナルと鉄

活性酸素がアポトーシスを担うカスパーゼのシグナルに必須であるという事実は,鉄が肝細胞のアポトーシスにおいて果たす役割を明らかにした.そしてこの知見は,臨床においてCHCに対する瀉血治療として応用されつつある.
References
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場