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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
鳥本悦宏,高後 裕
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野
鉄は生体にとって必須の金属であるが,一方で,Fenton反応,Harber‐Weiss反応を通して生体に有害なラジカル産生を引き起こす.そのため,循環血液中のほぼすべての鉄は,鉄の担体であるトランスフェリンに,細胞内ではフェリチンに結合し隔離されている.しかしながら,鉄過剰症や感染症などでは,生体にとって有害なトランスフェリンに結合しない鉄(non‐transferrin bound iron;NTBI)が生じ,これらNTBIは速やかに肝細胞などによって血中から排除されている.また,細胞内には,細胞内外あるいは細胞内の小器官間を,種々の不安定な形態で速やかに行き来している自由鉄が存在しており,必要な鉄を容易に利用できる鉄のプール(labile iron pool;LIP)として機能している.レドックス活性を有し,細胞障害や発癌に関与している可能性があるNTBIやLIPの解析はいまだ不明な点が多く,今後の解析が望まれている.
鉄は,その酸化状態に応じてFe2+とFe3+のいずれの状態にも変化でき,生体におけるレドックス活性の中心的な役割を果たしている.鉄を含む蛋白は,エネルギー産生や酸素運搬,DNA合成などといった生体維持機能に必須の物質として機能している.しかしながら,わずかな量であっても“free(自由)”な鉄は,生体にとって非常に有害であるヒドロキシラジカルを代表とするラジカル産生を媒介する.そのため鉄は,生体内ではヘム鉄(ヘモグロビンやミオグロビンなど),フェリチン,ヘモジデリン,トランスフェリンなどの鉄結合蛋白内に隔離されている.たとえば,血清中における鉄の担体であるトランスフェリンは,通常30%程度しか鉄と結合しておらず,十分な不飽和鉄結合能を有している.したがって,血中に自由鉄が放出されても素早くトランスフェリン結合鉄になる1).また,細胞内においても,このような鉄は鉄の貯蔵蛋白として機能しているフェリチンに取り込まれる.トランスフェリンやフェリチンを代表とする鉄結合蛋白は,反応の場から鉄を除きラジカル反応を阻止する役割をもっている.しかしながら,鉄過剰症を代表とする病態では,血清中にトランスフェリンに結合していない鉄(non‐transferrin bound iron;NTBI)が認められる.また,細胞内においても,鉄の取り込み,利用,貯蔵という過程において,種々の蛋白間を鉄が移動する際に,アクセス可能な鉄のプールが存在し,鉄の移動における中継地点になっていると考えられ,1946年“labile iron pool;LIP”という言葉が提唱された2).その後“transient iron pool”という表現が用いられたり3),最近では,この鉄のプールを鉄キレート剤により検出する手法が開発されたことから“chelatable iron”と表現されることもある4).本稿では,生体に有害な鉄の形態であるNTBIとLIPについて概説する.
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鉄による細胞障害や発癌に関しては,他稿で解説されると思われるので詳細は省くが,NTBIやLIPの形態で存在する鉄は,生体組織における活性酸素のなかで最も活性の高いヒドロキシラジカルの生成に重要である.図1に示すように,過酸化水素がFe2+により還元されヒドロキシラジカルが生成される.この反応は,Fenton反応と呼ばれる.また,Fe3+はスーパーオキサイドによってFe2+に還元され,この反応をFenton反応とあわせると,鉄の存在下で過酸化水素とスーパーオキサイドからヒドロキシラジカルが生成される反応となる.これは鉄に触媒されるHarber‐Weiss反応と呼ばれる.すなわち,NTBIやLIPに存在する鉄は,Fenton/Harber‐Weiss反応を介してヒドロキシラジカル産生を媒介し,蛋白,脂質,リポ蛋白,核酸など種々の細胞成分の酸化による細胞死や,変性疾患の発症,発癌などと関連している.
図1 鉄を媒介としたラジカル産生

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図2に示すように,健常者においては,循環血液中のほぼすべての鉄は,鉄の担体であるトランスフェリンに結合しており鉄のもつ毒性から守られている.しかしながら,遺伝性ヘモクロマトーシスや輸血依存となるサラセミア,骨髄異形成症候群,再生不良性貧血などの血液疾患,鉄剤の静脈内投与を受けている透析患者5)などでは鉄過剰症のため血清中のトランスフェリン飽和率が50~80%を超えるようになり,トランスフェリンの鉄結合能を超えて鉄が血中に存在するため血清中にNTBIが存在するようになる6,7).さらに,全身感染症,白血病急性期,C型慢性肝炎,アルコール性肝障害8)などの全身疾患や,化学療法中の患者9),心臓のバイパス手術の際10)などでは,トランスフェリンが飽和しない状態においてもNTBIが出現することが明らかとなっている.生体に有害なNTBIは,主に肝細胞や心筋細胞により速やかに取り込まれ血中から排除されるが,NTBIの細胞内への取り込みには,ほとんど制御機構がないため,過剰なNTBIの存在が持続すると肝細胞や内分泌細胞,心筋細胞内には過剰な鉄の蓄積をきたす.NTBIの多くは細胞膜上のferric
reductaseであるduodenal cytochrome BによってFe2+に還元され,細胞表面のDMT‐1やL‐type
Ca2+channelsのような二価鉄のトランスポーターから細胞内に取り込まれるとされている11,12,13).
血清中のNTBIの存在形式はいまだ十分に明らかにされていないが,クエン酸やアルブミンと結合して存在すると考えられている.特にアルブミンは血清中に大量に存在し,トランスフェリンが鉄で飽和していない状態でも十分に鉄と結合する能力を有している.血清中のNTBIを正確に定量する信頼に足る方法が確立していないため,NTBIに関する詳細な検討を難しくしている.最近,蛍光色素標識したデフェロキサミンなどの鉄キレート剤と蛍光スペクトロスコープを用いたアッセイ法が開発され,積極的にNTBIの解析が進められている7).
図2 血清NTBIの出現と臓器障害

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LIPは,細胞内外あるいは細胞内の小器官間を,種々の不安定な形態で速やかに行き来する鉄のプールである.Fe2+とFe3+両方の鉄イオン形態で存在し,鉄との親和性がそれほど強固でない低分子量のキレート物質と結合して形成されている.細胞内に存在する低分子のキレート物質としては,アデニン,グアニンのような核酸,システイン,チロシンのようなアミノ酸,あるいはクエン酸,アスコルビン酸,リン酸,リン脂質,ポリペプチドのような多くの低分子化合物が知られている.しかしながら,実際の生体内におけるLIPの形態に関しては十分には解明されていない.LIPは細胞内鉄総量の3~5%程度とその割合はきわめて少ない.しかしながら,細胞内で利用,蓄積される鉄は,細胞内に取り込まれた後,必ずLIPを通過することになり,理論的には,1日に消化管から吸収された1~2mgの食事中の鉄は,目的となる鉄結合蛋白に至るまでに1度はLIPを経由する.
図3に示すように,LIPの鉄の出入りには細胞内の種々の小器官が関与している14).平衡状態での細胞内LIPレベルは,細胞内への鉄の供給,細胞内における鉄の需要,細胞外への排出のバランスによって調整されている.LIPへの鉄の供給源の主要なものは細胞外から細胞内への鉄の取り込みである.これには,細胞膜上のトランスフェリン受容体を介したトランスフェリン結合鉄の取り込み経路とFe2+のトランスポーターであるDMT‐1などを介したNTBIの取り込み経路が知られている.トランスフェリン受容体を介した鉄取り込みであっても,細胞内エンドソーム内では,トランスフェリンからはずれたFe3+がFe2+に還元された後,エンドソーム上のDMT‐1によって細胞内に移動するため,いずれの経路によっても,細胞質に移動した直後の鉄はFe2+である.Fe2+は鉄を必要とする蛋白やフェリチン内に鉄が取り込まれる過程,細胞内の膜を通過する過程,ヘムの分解後に生じた鉄の細胞外への放出過程などで認められる.細胞にトランスフェリン結合鉄やNTBIを負荷することにより細胞内のLIPレベルが増加することが知られており,細胞内への鉄供給がLIPレベルを規定する因子であることは明らかである.細胞外からのLIPへの鉄供給に加えて,細胞内からのLIPへの鉄供給も認められる.最もよく知られているものはフェリチンで,フェリチンは鉄を結合・貯蔵し生体に有害な鉄を隔離する機能を有しLIPレベルを減少させる蛋白であるが,同時に,LIPレベルが減少した際には,蓄えた鉄分子を放出しそのレベルを維持している.また,ヘム蛋白がheme
oxygenase‐1により分解されて生じる鉄は,生体における主たる赤血球の処理細胞である網内系細胞においては,LIP形成に重要な因子となる.
LIPを減少させるものとしては,LIPの制御蛋白であるフェリチンや,主要なLIPの消費器官であるミトコンドリア,鉄を必要とする鉄結合蛋白の鉄需要,および細胞外への鉄放出が関与する.LIP総量を減少させるうえで最も重要な役割を果たしているフェリチンの量は,細胞内の鉄量のセンサーとして機能している鉄調節蛋白質(iron
regulatory protein;IRP)‐1やIRP‐2によって,mRNAレベルで制御されている.細胞内には鉄-硫黄クラスターを活性中心にもつ蛋白質(iron‐sulfur
protein)があるが,その1つのアコニターゼは,LIPが十分あると細胞質アコニターゼとしての酵素活性を有する.しかし,LIPレベルが低下して鉄―硫黄クラスターの形成が不十分になると,IRPとして機能しフェリチンやトランスフェリン受容体などの蛋白合成を調節する.細胞外への鉄排出機構の詳細は必ずしも十分には解析されていないが,消化管上皮細胞において見出されたFe2+の細胞外へのトランスポーターであるferroportin(Fp)がほかの細胞においても発現していることから,これらの細胞における鉄の細胞外排出に関与しているものと考えられている.Fpの発現は最近発見されたhepcidin(Hp)によってdown‐regulationされることが知られ15),Hp濃度が上昇する炎症や鉄過剰状態では細胞外へ排出される鉄が減少し細胞内LIPの増加を生じる.
それぞれの小器官のLIPレベルへの関与の程度は細胞の種類によって異なっている16).たとえば,赤血球産生を担う赤芽球では,トランスフェリンからの鉄はミトコンドリアのferrochelataseに非常に効率的に渡されヘム合成に使用されるため,細胞質にはほとんどLIPは検出できない17).それに対して,マクロファージなどの細胞においては,赤血球の貪食,ヘモグロビンの分解,heme
oxigenase‐1によるヘム鉄の放出ということが行われており,LIPの増加が予測されているがヘム由来のFe2+が直接細胞質LIPに入るかどうかについては明らかになっていない.また,主たる鉄の貯蔵細胞である肝細胞においてはLIPの存在が確認されている4).
ミトコンドリアは細胞内における主要な鉄消費器官であるが,同時に主要なスーパーオキサイドの産生部位でもある.ミトコンドリアにおいてはヘムや鉄―硫黄クラスター蛋白へ取り込まれる鉄とミトコンドリアに入る鉄量は厳密にリンクしていることから,ミトコンドリア内のLIPレベルは非常に少ないと考えられている.しかしながら,キレート可能な鉄の存在が培養肝細胞や心筋細胞のミトコンドリア内に認められ,キレート物質がミトコンドリア内のreactive
oxygen species(ROS)産生を抑制することも知られている18).したがって,鉄-硫黄クラスター蛋白合成に必須のfrataxin蛋白異常に起因するFriedreich's
ataxiaや,ミトコンドリアの鉄トランスポーターであるABC7遺伝子の異常であるX連鎖性鉄芽球性貧血などのようなミトコンドリア内に鉄蓄積をきたす疾患においては,ミトコンドリア内LIPの増加が考えられる19).
図3 細胞内LIPの動態

Tf:トランスフェリン,TfR:トランスフェリン受容体,Ft:フェリチン,HO:heme oxigenase‐1,LI:labile iron,Mf:mitoferrin,Fp:ferroportin.(Adapted and translated with permission. Copyright, (2007), Elsevier.)
(文献14より改変引用)
鉄はFenton反応,Harber‐Weiss反応を通して生体に有害なROSの産生を引き起こす.したがって,自由鉄はなるべく少なく維持されるべきであるが,一方で,細胞内で必要な鉄を容易に利用できる環境も必要である.こういった相異なる要求を満たすために一過性の細胞内鉄プールであるLIPが存在している.レドックス活性を有し細胞障害や発癌に関与している可能性がある細胞内鉄プールの解析は,いまだ不明な点が多く今後の解析が望まれる.
References
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場