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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
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東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
小船雅義,加藤淳二,新津洋司郎
札幌医科大学医学部内科学第四講座
フェリチンは,HおよびLの24サブユニットから構成される鉄結合蛋白質であり,その内腔に鉄原子を結合・貯蔵する.細胞質におけるフェリチン合成は,主として細胞内鉄量に応じて,iron responsive element(IRE)というフェリチンmRNAの三次元構造にiron regulatory protein(IRP)というレプレッサー蛋白が結合・乖離することによって調節されており,過剰の遊離鉄が細胞内で毒性を発揮しないよう制御されている.フェリチン蛋白は血中にも微量ながら分泌され,一義的には貯蔵鉄のマーカーとしてこれまで臨床で使用されてきた.近年,フェリチンに関していくつかの発見があった.ミトコンドリアに局在するミトコンドリア・フェリチンの遺伝子がクローニングされ,ミトコンドリア内の鉄動態のみならず,細胞全体の鉄代謝の恒常性の維持に関与することが明らかにされた.さらに,フェリチンの遺伝子異常による疾患が相次いで発見された.HまたはLサブユニットmRNA上のIRE領域の点突然変異に起因する高フェリチン血症が見出されており,前者は鉄過剰症を,後者は白内障を合併する.また,Lサブユニット遺伝子のcoding regionの種々の変異により低フェリチン血症および神経症状を呈する新しい症候群“neuroferritinopathy”が見出された.今まさに,フェリチンに関する基礎および臨床研究は新たな展開を迎えているのである.
フェリチンは,HおよびLサブユニットから構成される鉄結合蛋白質であり,その内腔に鉄原子を結合・貯蔵する(図1,2).フェリチン蛋白は,組織のなか,特に肝臓あるいは脾臓に多く存在するが,血中にも微量ながら分泌される.図3に示すように,細胞におけるフェリチン合成は,おのおののサブユニットmRNAの5'側非翻訳領域にあるiron responsive element(IRE)にiron regulatory protein(IRP)が結合・乖離することによって調節されており1),細胞内鉄濃度が上昇すると翻訳が増加する.血清フェリチンは基本的に組織フェリチン量を反映して変動し,鉄欠乏状態では低値を示し,鉄過剰状態では高値を示す.また,体内の鉄分布異常の結果,フェリチン合成が高まり血清フェリチンが増加する場合がある.たとえば,血球貪食症候群や慢性炎症に伴う貧血では,脾臓などのマクロファージに鉄が増加しフェリチン合成が誘導され,高フェリチン血症を呈する.一方,フェリチン合成の増加を伴わずに血清フェリチンが増加する場合があり,悪性腫瘍,肝炎,膵炎などでは,組織崩壊の結果,フェリチンが血中に放出され血清フェリチンが高値となる.そのほかに,フェリチンの合成異常によって,血清フェリチン値が異常値を示す場合がある.HまたはLサブユニットmRNA上のIRE領域の点突然変異に起因する高フェリチン血症が見出されており,前者は鉄過剰症を,後者は白内障を合併する2,3,4).また,Lサブユニット遺伝子のcoding regionの変異に基づく低フェリチン血症および神経症状を呈する新しい疾患として“neuroferritinopathy”が提唱されている5,6,7,8).このほか,ミトコンドリアに局在するミトコンドリア・フェリチンの遺伝子がクローニングされたが,ミトコンドリア内の鉄動態のみならず,細胞全体の鉄代謝の恒常性の維持に重要な役割を演じることが明らかにされてきた.それとともに,細胞質とミトコンドリア間のダイナミックな鉄動態にかかわる分子機構の一端が解明されようとしつつある.
図1 フェリチンの構造

(A)外殻は回転楕円体のサブユニット(直径12nm)で構成される.
(B)フェリチン横断面:フェリチン内は直径8nmの中腔になっており,三価鉄塩がフェリチンの蛋白の側鎖のポリペプチドと会合して固定される.
(Theil EC:J Nutr 133:1549S‐1553S, 2003より改変)
図2 フェリチン分子が鉄を収容するまでのモデル概略図

鉄はトランスフェリン受容体(TfR)を通して細胞に取り込まれ,二価鉄として細胞質の鉄プールへ移動する.二価鉄はH‐サブユニットのferroxidaseによって酸化されて,三価鉄としてフェリチン殻内に隔離・収容される.
Tf:トランスフェリン,HFE:hemochromatosis protein,H‐Ft:フェリチンH‐サブユニット,L‐Ft:フェリチンL‐サブユニット.
図3 IRPによるフェリチンmRNA上のIREを介した蛋白翻訳制御

鉄過剰状態ではIRP1はiron sulfur cluster([4Fe‐4S] cluster)と会合することにより,IREとの結合性を失うが,IRP2においてはIDDドメインを介して鉄依存的にユビキチンプロテアソーム系により分解される.
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鉄はレドックス反応や酸素担体として働き,細胞の恒常性の維持に重要な役割を演ずる一方で,過剰な二価鉄イオンが細胞内に存在するとラジカル産生を介して細胞膜,細胞内蛋白質および核酸に損害を与えて,結果的に細胞のアポトーシスや線維化を引き起こし肝障害や心筋障害のほか,神経変性疾患を誘発する5,6,7,8).このため細胞内の遊離鉄量は厳密に調節される必要があり,酵母を除く大部分の生命体においては,細胞内の鉄はフェリチン蛋白に収容され毒性を発揮しないよう制御されている.このように種間で高度に保存されたフェリチン蛋白殻の内部は最高4,500の原子鉄を収容するための中空を有している(図1).哺乳類の細胞質内フェリチンは,HとLの2つのsubunitが組織ごとにさまざまな比率からなる24‐サブユニットで構成される.細胞内の二価鉄はフェリチン殻内に取り込まれる前に,フェリチンH‐subunitのferroxidase siteにより酸化され三価の鉄としてフェリチン内に収容される(図2).フェリチン蛋白からの鉄の放出は,還元剤を添加することでフェリチン殻が障害されることなく生じることが知られているが,生理的な分子機構は明らかになっていない.しかしながら,in vitroで細胞質フェリチンにISCAという細胞内鉄結合蛋白質を混合すると,フェリチンからISCAへ鉄が受け渡されるとの報告がなされている9).H‐subunitの増加は遊離鉄量を低下させ,その結果,細胞増殖の速度が減少するとともに酸化的細胞損傷に対して抵抗性を獲得する.一方,H‐subunitが減少すると細胞内遊離鉄が増加し,その結果,アポトーシスの増加と細胞増殖促進が引き起こされる.
ところで,細胞内に取り込まれた鉄は細胞質のribosomal protein S3,iron regulatory protein‐1,xanthine oxidaseなどに利用されるが,大部分の鉄はミトコンドリアに運搬され,呼吸鎖,TCAサイクル,ヘム合成およびNTH1/MutYHといったDNA修復系など細胞の恒常性を維持するために利用される.しかしながら,ミトコンドリアに運搬された大量の鉄が毒性を発揮しない分子機構の詳細は長年のあいだ不明であった.ミトコンドリア内の鉄量が増加する疾患において,ミトコンドリアを電子顕微鏡で観察するとフェリチン様の蛋白質殻が観察され,その内腔に鉄が蓄積されていることが古くから知られていた10).この物質は細胞質のHおよびLフェリチンsubunitに対する抗体で染色性を認めないことから,その本態は謎であった.ところが最近,ミトコンドリア特異的なフェリチンと相同性を示す遺伝子がクローニングされ,ミトコンドリア内の鉄を保管することで,鉄の毒性を消去していることが明らかにされた.以下に,これまでに明らかにされてきたミトコンドリア・フェリチンの特性と機能について解説する.
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前述のごとく,鉄は主として細胞質に保管されるにもかかわらず,細胞内における大部分の鉄はミトコンドリアで代謝され利用される.この細胞小器官が鉄を有効利用するとともにその毒性を制御するメカニズムはほとんどわかっていなかった.しかしながら,上述のごとくLeviらによりヒトおよびマウスにおいてミトコンドリアに特異的な新しいフェリチンが発見されたことをきっかけに,ミトコンドリアにおける鉄動態の分子機構が急速に明らかにされようとしている11).ミトコンドリア・フェリチンは細胞内フェリチンと構造的および機能的に類似している.ミトコンドリア・フェリチンは242個のアミノ酸の前駆体蛋白質から産生され,その遺伝子は染色体5q23.1上にあり,イントロンのない遺伝子にコードされる.この30kDaの前駆体蛋白質はミトコンドリア内に移行した後に,60アミノ酸のleader
sequenceが除去され22kDaの蛋白質にプロセッシングされる12).それが重合することで24のサブユニットのhomopolymerからなるミトコンドリア・フェリチンが形成される.図4に示すように,ヒト・ミトコンドリア・フェリチンは,ヒトH鎖フェリチンとアミノ酸で約80%,ヒトL鎖フェリチンで55%と高度な配列相同性をもつ13).哺乳類における細胞質内のフェリチンの発現は各組織に普遍的にみられるが,ミトコンドリア・フェリチン発現は主として精巣,神経細胞,膵のランゲルハンス島および網膜に認められる14,15).しかしながら,鉄の主要貯蔵器官である肝臓と脾臓では検出されない.それに加えて,ミトコンドリア・フェリチンは,鉄芽球性貧血患者の赤芽球のミトコンドリアにおいては鉄沈着とともに認められる.さらに,ミトコンドリア・フェリチンの遺伝子をHeLa細胞へtransfectionすると,ミトコンドリア内の鉄を貯蔵することにより,鉄によって誘発される毒性が解除され,ミトコンドリアが保護されるとともに,細胞質内フェリチン量が低下し,トランスフェリンレセプターの発現が増加する16).このことは,ミトコンドリア・フェリチンはミトコンドリアにおける鉄貯蔵・解毒蛋白として働いているのみならず,細胞質内の生理的鉄動態ともリンクして細胞の恒常性を維持している可能性を示している.また,ヘム合成障害のある鉄芽球性貧血においてはミトコンドリア・フェリチンによる鉄貯蔵量が著増することから,ミトコンドリア・フェリチンはヘム合成系とも関連することが推定される17,18).
ミトコンドリア・フェリチンとヒトH鎖フェリチンの比較研究により,それらは類似のferroxidase活性を示すアミノ酸配列をもつにもかかわらず,鉄の酸化と加水分解の特性に関して相異があることが明らかとなった.ヒトH鎖フェリチンと対照的に,ミトコンドリア・フェリチンは一定量の二価鉄を三価鉄に酸化させた後,そのferroxidase活性を失ってしまうため19),ミトコンドリア・フェリチン殻内に三価の無機鉄化合物を蓄積する速度は,細胞質内のフェリチンに比してかなり遅い速度で進行する19,20).また,ミトコンドリア・フェリチンのsubunitは,鉄を蓄積するにあたって細胞質内フェリチンL‐subunitの特徴もあわせもち,部位特異的突然変異導入による解析の結果,ミトコンドリア・フェリチンのセリン残基144が鉄の蓄積に関与していることが明らかにされている19).
図4 ヒト・ミトコンドリア・フェリチン,HおよびLフェリチンsubunitのアミノ酸配列

上向きの矢印は,Hフェリチンとミトコンドリア・フェリチンで保存されるferroxidase活性に必須なアミノ酸残基を示す.下向きの矢印は予測されるリーダーペプチドの切断部位を示す.3種のフェリチンで保存されているアミノ酸残基は黒色で,ミトコンドリア・フェリチンとHフェリチンで保存されているアミノ酸残基は灰色で示した.
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フェリチン蛋白発現の調節は,主としてpost‐transcriptional regulation(翻訳レベル)でなされている.図3に示すように,細胞におけるフェリチン合成は,HおよびLサブユニットmRNAの5'側非翻訳領域にあるIREという三次元構造をもつmRNAに,IRP1あるいは2(アコニターゼに配列相同性をもつ)が結合・乖離することによって調節されている1).このIRP1/IRP2のフェリチンmRNAへの結合および乖離は,細胞内鉄濃度によって制御されている.すなわち鉄欠乏状態ではフェリチンmRNAのIREにIRP蛋白が結合すると,フェリチンmRNAがリボソームに移行するのが阻害され,その結果,フェリチンmRNAの蛋白質の翻訳が低下し細胞質内のフェリチン蛋白量が低下する.一方,鉄過剰状態ではフェリチンmRNAのIREからIRP蛋白が乖離し,フェリチンmRNAがリボソームに移行した結果,フェリチンmRNAの蛋白質の翻訳が増加し細胞質内のフェリチン蛋白量が増加する.このIRP1/IRP2のIREへの結合性の変化の制御メカニズムは両者において異なる.細胞内鉄イオンが高い状況では,IRP1にiron sulfur cluster(4Fe‐4S cluster)が会合することによりIREとの結合性を失い,その代わりにアコニターゼという解糖系酵素の活性を獲得する.一方,IRP2においてはiron dependent degradation(IDD)ドメインを介して鉄依存的にユビキチンプロテアソーム系により分解される21).すなわち,細胞内鉄濃度依存的にIRP1は機能変換,IRP2は細胞内蛋白質量を調節することにより,フェリチンの発現量を制御しているのである.また,レドックス・シグナルの強度によって,IRPが段階的な応答をすることで,微妙なIRE応答性の蛋白発現が実現されている.
ところで,上述のFe‐Sは細胞質内およびミトコンドリア内に存在するが,この産生機構についての研究が飛躍的に進歩を遂げ,その概要が明らかになりつつある22).図5はこれまでの報告をまとめて図示したものであるが,cysteine desulphurase(ISCS)が,Safford蛋白質(ISCUおよびNFU)上で,硫黄をcluster形成に提供し,強力な鉄結合蛋白質であるISCAがSafford蛋白質に鉄を供給する.さらにレドックス・蛋白質であるferredoxinとglutaredoxinはFe‐S cluster構築に必要な還元反応を司る.その後,chaperone蛋白質であるHSCAとHSCBはFe‐S clusterの成熟を促進するほか,Fe‐S clusterを標的蛋白質である前述のIRP1などに供与し,結果的にフェリチン産生が制御される.すなわちFe‐S cluster産生系はIRP1を介した細胞内鉄動態と密接に関連していることが明らかにされたのである.
図5 最近解明されつつあるFe‐S cluster構築の経路

この過程は,ミトコンドリアおよび細胞質で進行する.ISCSは,Safford蛋白質(ISCU,NFUと鉄供与体ISCA)上で,硫黄(S,gray circle)をcluster形成に提供する.レドックス・蛋白質であるferredoxinとglutaredoxinはFe‐S cluster構築に必要な還元反応を司っている可能性がある.chaperone蛋白質であるHSCAとHSCBはcluster成熟を促進する可能性や,Fe‐S clusterを標的蛋白質へ移動させるのに関与している可能性が推定されている.frataxinは,Fe‐S cluster形成のために鉄を供給している可能性を示唆した報告もあるが完全には明らかになっていない.
(文献22より改変)
以前よりヒト・フェリチンHおよびL蛋白ともに鉄非依存性のシグナルに反応して上昇することが知られていたが23),最近,このようなフェリチンの増加が転写レベルで制御されていることが明らかにされつつある.脊椎動物においては,これまで検討されたすべての種において細胞質内フェリチン遺伝子構造は,3つのintronsと4つのexonsをもち,さらにintron‐exon境界部もほぼ同様の位置に存在することが明らかにされている24).これは上述のミトコンドリア・フェリチンがイントロンをもたない遺伝子構造であることと決定的に異なる点である.最近,フェリチンHおよびL‐subunitの遺伝子は,プロモーター配列中にMaf認識element(MARE)/antioxidant responsive element(ARE)配列と呼ばれる配列をもち25),MARE/ARE遺伝子にBach1リプレッサーが結合するとフェリチン遺伝子の転写が阻害されることが示された(図6).酸化ストレスがあると,Bach1によるフェリチン遺伝子転写抑制が解除され,フェリチンHとL両方の遺伝子からRNAが転写される.このMARE/AREは,ほかのDNA,たとえばヘモグロビン鎖β‐グロビン26),ヘムオキシゲナーゼ27),チオレドキシンレダクターゼ,キニーネ・レダクターゼのプロモーター上にも認められる28).すなわち,これらの遺伝子はBach1を介してフェリチン遺伝子の発現と協調してその発現が制御され,最終的に細胞を酸化ストレスから保護しているといった合目的的なシステムが存在していることがうかがわれる.ヘムは同様にフェリチン遺伝子転写を誘発するが,転写レベルにおいては,鉄それ自身はフェリチン遺伝子mRNA転写をほとんど誘導しない24).また,TNF‐αはHフェリチン遺伝子の転写誘導物質であることが知られていたが23),この分子機構としてマウスゲノムではTNF‐αがNF‐κBの転写開始点から4.8kb上流のcis‐acting regionに結合することで制御されることが明らかとされている29).また,IL‐1やIL‐6に反応して,フェリチンHおよびL‐subunitの転写が促進されるが,ヒトフェリチンH‐subunit遺伝子のIREの下流にあるacute box cis‐elementが関与することが明らかとされている30).このほか,ヒトH‐ferritin遺伝子においては,cAMP‐responsive region(B‐box)とそれに結合することで転写を促進するB‐box binding factor NF‐Yが,さらにNF‐Yとhistone acetylase p300/CBPの結合を制御するhistone acetylase p300/CBP associated factor(PCAF)の関与が,またA‐Box contains SP‐1 consensus sequenceとそれに結合することで転写を促進するG‐ferが報告されている31).一方,転写抑制としてnegative regulator of H‐ferritin transcriptionとそれに結合するinhibitory factor 1(IF‐1)が明らかとされている.また,アデノウイルス由来のE1AはNF‐κBを介したフェリチンH‐subunitの転写を抑制することが示されている31).
ヒトフェリチンL‐subunitのプロモーター領域の転写制御に関しては,十分な解析が進んでいないようである.しかしながらGenome project終了後,インターネット上でさまざまな解析ツールが無料で使用できるようになっており,転写因子に対するconsensus sequenceをスクリーニングすることで,プロモーターに結合し得る転写因子をある程度予測できるようになってきている.TRANSFAC®(http://www.gene‐regulation.com/index.html)のMatch™(http://www.gene‐regulation.com/cgi‐bin/pub/programs/match/bin/match.cgi)を選択し,ヒトフェリチンL‐subunitのpromoter6,000bpをinputし解析すると17の転写因子がpick upされてくる.ここでは詳細は述べないが,このようなin silicoシステムを用いた手法も,ヒトフェリチンL‐subunitを含めた遺伝子の転写制御機構の解明に利用されていくものと考えられる.
図6 ヒトフェリチンH‐subunit遺伝子とヒトフェリチンL‐subunit遺伝子のプロモーター領域

ヒトフェリチンH‐subunitの転写制御領域はTATA boxの近傍5'上流に存在する.B‐box, B‐box binding factor NF‐Y, PCAF, A‐BoxはSP‐1 consensus sequenceを含む.IF‐1, MARE/ARE, G‐ferは転写抑制因子として働く.(文献24および文献25より改変)
上述のごとくミトコンドリア・フェリチン遺伝子はintronがない遺伝子構造を示し,鉄芽球性貧血などミトコンドリアの鉄過剰に反応して,その蛋白量が増加することが知られているが17),その発現制御機構はほとんどわかっていない.ミトコンドリア・フェリチンには開始コドンAUGの直後にIREとの弱い相同性を示すAUGCUGUCCUGCUUCAGGCUCCUCUCCAGGCACATCがみられるが,フェリチンH‐subunitのIREのGGGGUUUCCUGCUUCAACAGUGCUUGGACGGAACCCの機能発揮に不可欠なCAGUGループ(下線部)は保存されていない.このことは,ミトコンドリア・フェリチンのIRE様配列は機能しておらず,その発現はIRE‐IRPシステムによる翻訳制御を受けないことを示している11).したがって,ミトコンドリア・フェリチンの発現は主としてmRNAの転写レベルで制御されている可能性が高い.さらに,その発現は精巣,神経細胞,膵のランゲルハンス島および網膜といった組織特性があることから,組織特異的転写因子による制御を受けているものと推察される11).
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植物からヒトにわたって生体における鉄のホメオスターシスの維持において,フェリチンは重要な役割を演じている.したがって,フェリチン遺伝子の異常はさまざまな疾患を引き起こすことが想定されてきた.実際にフェリチンH‐subunitのknockoutマウスは胎性致死となる32).近年になってヒトフェリチンの遺伝子異常による疾患が相次いで報告されてきた(表1).hereditary hyperferritinemia cataract syndrome(HHC)という常染色体優性遺伝の疾患ではフェリチンL mRNAのIREに点突然変異が生じた結果,鉄過剰がなくても,フェリチンL‐subunitの翻訳が亢進し,高フェリチン血症を示すとともに白内障を発症する3)(図7).さらに最近,われわれはフェリチンH‐subunitのIREの突然変異をもつ一家系を発見した2)(図8).同疾患は常染色体優性であり,IRPに対するIREの親和性が増大した結果,H‐subunitの翻訳が減少し,結果的に鉄過剰症を発症する(図9).さらに,フェリチンL‐subunitのC末端のドメインの突然変異により発症する疾患が発見された5,6,7,8).本疾患は優性遺伝を示し,血清フェリチンが減少するにもかかわらず,脳神経細胞にフェリチンと鉄の異常な沈着が認められる.このsubunitのcoding resionの突然変異による疾患は,新たな症候群として“neuroferritinopathy”と総称されている.
| 遺伝子と変異 | 染色体部位 | 変異による異常 | 参考文献 |
|---|---|---|---|
| 細胞質フェリチンL鎖 IRE変異 |
19q13.3 | Hyperferritinemia/cataract |
Beaumont C, 19954) |
| 非IRE変異 | Neuroferritinopathy (A insertion at 460‐461) (C insertion at 646‐647) (474G>A ; A96T) (A insertion at 460‐461) |
Curtis AR, 20015) Mancuso M, 20056) Maciel P, 20057) Chinnery PF, 20078) |
|
| 細胞質フェリチンH鎖 IRE変異 |
11q12‐q13 | Iron overload |
Kato J, 20012) |
| ミトコンドリア・フェリチン | 5q23.1 | unknown | Levi S, 200414) |
図7 既報のフェリチンL‐subunit mRNAにおける点突然変異と欠失

IREに上記異常が生じるとHHC(遺伝性高フェリチン・白内障症候群)を発症する.
図8 フェリチンH‐subunit mRNAにおける+48A→U点突然変異

IREに上記異常が生じると鉄過剰症を発症する.
図9 H‐subunitのA49U突然変異による鉄の蓄積機構

突然変異したH‐subunit mRNAのIREにIRPが高率に結合するため,結果的にフェリチンのL‐subunitが増加する.すなわちL‐subunitが豊富でH‐subunitの乏しいフェリチンが形成される.ferroxidase活性をもつH‐subunitの合成が抑制されると,鉄プールからフェリチン殻内への鉄輸送が減少し,遊離鉄が増加し,最終的に細胞障害やDNA損傷が惹起されるのかもしれない.
L‐Ft:ferritin L‐subunit, H‐Ft:ferritin H‐subunit.
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上述のごとくミトコンドリア・フェリチン遺伝子をHeLa細胞にtransfectさせることで,ミトコンドリア・フェリチンを高発現させると,ミトコンドリア・フェリチンがマトリクスで増加し,鉄を取り込む現象が観察される.その一方で,細胞質内フェリチン量が低下し,トランスフェリンレセプターの発現が増加することが報告されている16).このことは,細胞質内鉄プールがミトコンドリア内に移行し,最終的にミトコンドリア・フェリチンに収容される経路が存在することを示唆している.近年,ミトコンドリアにおける鉄関連輸送ポンプと前述のFe‐S clusterを構築するための遺伝子が次々とクローニングされた.その結果,ミトコンドリアと細胞質を結ぶ鉄動態の一部が解き明かされつつある22).それらをまとめて図10に示す22).血清中のTf鉄はTf受容体とDMT1を通して,細胞室内に輸送され細胞質フェリチン内に収容される.その後,鉄はICSAなどの鉄輸送体によりscafforld蛋白複合体(ISCS,ISCU,NFUなど)に搬送され,Fe‐S cluster形成に関与する.なお,frataxinも,Fe‐S cluster形成のために鉄を供給しているとの報告もあるが完全には明らかになっていない33).ISCS,ISCUおよびNFUはスプライシングの違いにより,mitochondrial targeting sequencesをもつものはミトコンドリアに移行し,もたないものは細胞質に留まり,その機能を発揮する22).また,細胞質の鉄,Fe‐S clusterおよびヘム鉄はミトコンドリア鉄輸送ポンプを介してミトコンドリア・細胞質間を移行する.細胞質に移行したFe‐S clusterやヘムは細胞質フェリチンの翻訳・転写に関与することで,最終的に細胞内全般の鉄動態に影響を与えている可能性が想定される.
図10 細胞質・ミトコンドリア間の鉄動態とフェリチンの関与

血清中のトランスフェリン鉄はトランスフェリンレセプターとDMT1を通して,細胞室内に輸送され細胞質フェリチン内に収容される.その後,鉄はICSAなどの鉄輸送体によりscafforld蛋白複合体(ISCS,ISCU,NFUなど)に搬送され,Fe‐S cluster形成に関与する.また,細胞質の鉄はミトコンドリア鉄輸送ポンプを介して移行し,ミトコンドリア・フェリチンや上述のFe‐S cluster形成複合体,呼吸鎖,ヘム合成系に受け渡される.鉄輸送体としてfrataxinの関与を指摘する報告がある.形成されたFe‐S clusterやヘムはそれぞれミトコンドリア輸送ポンプにより細胞質へと輸送され,細胞質フェリチンの発現を制御する.
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細胞質内のフェリチンの一部は血清に分泌されるが,血清フェリチンは糖鎖修飾されたL‐subunitで構成されることから,血清フェリチン内の鉄量は乏しいことが特徴である24).血清フェリチンは臨床検査において,一義的には体内の貯蔵鉄量を把握する目的で測定される.貧血が存在するときはもちろん,鉄過剰症が疑われるときも必ず測定する.慢性炎症や悪性腫瘍に伴う貧血の場合,血清フェリチンは正常または高値を示すことから鉄欠乏性貧血との鑑別に用いられる.鉄欠乏状態は,血清フェリチンが低値であれば診断することが可能であり,この場合,血清鉄低下,総鉄結合能(TIBC)増加,不飽和鉄結合能(UIBC)増加を示し,トランスフェリン飽和度(血清鉄/TIBC×100)は16%以下に低下する.また,血清フェリチンの正常値には明らかな性差が認められる.女性の平均値は男性と比べ1/2~1/3の低値をとるが,これは貯蔵鉄量の差異を反映しており,月経による慢性の鉄喪失のためと考えられている.事実,閉経後の女性の値は男性の値に近づくことが知られている.男性女性を通じて,成長期に減少し,加齢によって増加する傾向がある.表2に血清フェリチンが異常値を呈する疾患をあげた.前述したように,フェリチンは組織の貯蔵鉄量の変化に並行し増減する蛋白であり,その血中レベルは基本的に組織内の貯蔵鉄量を反映する.すなわち,血清フェリチン値が低値を示す場合には体内鉄欠乏状態と考えられ,12ng/mL以下で貧血が存在する場合は鉄欠乏性貧血と診断することが可能である.血清フェリチンが高値を示す場合は,貯蔵鉄量が増加するような疾患,たとえばヘモクロマトーシス,多量の輸血や鉄剤の過剰投与後のヘモジデローシス,無効造血(骨髄異形性症候群など)などが考えられる.慢性炎症時に伴う貧血の際は,血清鉄が低下するが,血清フェリチンは正常値から高値を示す.この機序は,IL‐6などの炎症性サイトカインの作用によって,肝でのヘプシジンという25アミノ酸よりなるペプチド産生が亢進し,血清鉄(トランスフェリン鉄)が肝に取り込まれる一方で,それが網内系からの鉄遊離(網内系から血中トランスフェリンへの鉄の授受)を低下させるためである34).他方,血球貪食症候群では,上述した炎症性サイトカインの作用に加えて血球を貪食したマクロファージによるフェリチン合成が高まり,高度のフェリチン血症を呈する.悪性腫瘍では腫瘍組織からのフェリチンの逸脱,癌貧血に伴う鉄代謝異常,他臓器への腫瘍浸潤,転移による組織崩壊により血清フェリチンは増加する.急性肝炎では,組織壊死に伴って血中にフェリチンが逸脱するため高フェリチン血症を呈するが,加えてクリアランスの低下(90%以上の血清フェリチンは肝で除去される)もその一因となっている.同様に急性膵炎の高フェリチン血症の成因も組織からの逸脱と考えられている.
| 高値を呈するもの | |
|---|---|
| 良性疾患悪性疾患 ヘモクロマトーシス ヘモジデローシス 再生不良性貧血 無効造血 慢性炎症に伴う貧血 肝炎(特に急性) 膵炎(特に急性) HHC症候群 |
悪性疾患 白血病 悪性リンパ腫 多発性骨髄腫 悪性組織球症 肝癌 膵癌 肺癌 精巣腫瘍 腎癌 卵巣癌 |
| 低値を呈するもの | |
| 鉄欠乏性貧血 潜在性鉄欠乏 neuroferritinopathy |
|
フェリチンに関する最近の進歩について解説した.細胞質フェリチンのほかにミトコンドリア・フェリチンが発見されたことにより,細胞内鉄動態がこれまで想定されていたよりも,かなり複雑に調節されている可能性がある.さらにミトコンドリア・フェリチンの発見をきっかけに,ミトコンドリア-細胞質間の鉄輸送に関する研究も急速に進行しつつある.近い将来に細胞内鉄動態の分子機構が包括的に理解され,それらのシステムの異常により発症する疾患が解き明かされるとともに,その治療法が開発されていくことを期待したい.
References
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場