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Iron Overloadと鉄キレート療法

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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長  堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授  押味 和夫

<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授  大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授  小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授  高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授  中尾 眞二

第1章 鉄代謝の病態生理

2 ヘプシジン

友杉直久

金沢医科大学総合医学研究所先進医療研究部門/腎機能治療学

サマリー

  血清鉄は,鉄輸送膜蛋白であるフェロポルチンを介して,腸管上皮細胞,肝細胞,網内系マクロファージ内の貯蔵鉄から供給され,血液中の総鉄量は3~4mgに保たれている.このフェロポルチンの作用を制御するホルモンがヘプシジン‐25である.ヘプシジン‐25はフェロポルチンと結合し,エンドサイトーシスで細胞内部に移行し,ライソゾームでともに分解され,膜フェロポルチン量を制御している.生理的な状態では,血清鉄を必要とするときにはヘプシジン‐25が低下しフェロポルチンの鉄輸送を促進させ,また不要になればヘプシジン‐25が上昇しフェロポルチンを分解して鉄補給を抑制すると考えられている.ヘプシジン‐25の産生亢進状態は,(1)鉄の過剰投与,(2)持続性の炎症,(3)骨髄機能低下などの病態でみられる.いずれの場合も,ヘプシジン‐25産生亢進により貯蔵鉄から血清鉄への供給が低下している機能的鉄欠乏状態であり,このような状況でさらに鉄が投与されると容易にヘモジデローシスに陥ることになる.近年,質量解析計を用いて血清ヘプシジン‐25の定量が可能になり,ヒト疾患での鉄代謝異常を分子レベルで解析することができるようになった.

はじめに

 近年の鉄代謝制御機構は,図1で示すようにトランスフェリン,トランスフェリン受容体2(transferrin receptor2 ;TfR2),フェリチン,iron regulatory protein(IRP),divalent metal transporter 1(DMT‐1),heme carrier protein‐1,フェロポルチン,HFE,ヘモジュベリン,ヘプシジンなどの分子レベルで理解されるようになった1,2).このなかで,血清蛋白質はトランスフェリン,フェリチン,ヘプシジンであり,臨床的には鉄結合能や貯蔵鉄の指標として前2者が測定されてきた.一方,ヘプシジンは肝臓で産生される一種のペプチドホルモンであり,主に動物実験の成績から鉄代謝制御機構の中心的役割を演じていることが判明したが,これまで血清ヘプシジンを測定することができなかった.近年,質量解析法を用いた血中ヘプシジン‐25測定法が開発され3),鉄代謝状態を新たな観点から臨床的に評価することが可能になり注目されている.

図1 鉄代謝制御機構
鉄代謝制御機構

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鉄の吸収

 鉄は,生体に多量に存在する必須微量元素であり,ヘモグロビン・ミオグロビンなどの酸素結合分子や,チトクローム・カタラーゼ・ペロキシダーゼなどの酵素の活性中心として機能しており,酸化還元反応やエネルギー代謝系で必要とされる重要な元素である.しかし,生体にとって鉄は得にくい元素であるため積極的な排泄系が用意されておらず,腸管粘膜の脱落に伴う鉄の喪失量1~2mgを,食物鉄から腸管で吸収しバランスをとっており,必要以上に吸収することはない4).造血には20~25mg/日の鉄を要するが(図1),これにはマクロファージで処理された老化赤血球の鉄が再利用されており,閉鎖系で厳密に鉄は保存されている.しかし,遺伝性ヘモクロマトーシスでは,制限されることなく食物鉄の吸収が続き,過剰に吸収された鉄は肝,内分泌腺,心,皮膚などに沈着し,フリーラジカルの産生源となり細胞膜,蛋白質,遺伝子などを障害する.鉄の静脈注射も,非生理的な補給手段であり過剰投与に注意すべきである.逆に,腸管での鉄吸収の低下や,老化赤血球を処理したマクロファージからの鉄再利用の低下,貯蔵鉄からの鉄放出の低下をきたせば,容易に鉄不応性貧血に陥る.炎症性貧血や骨髄造血機能障害はその代表的な病態である.このような病態に伴う鉄制御機構は,ペプシジン‐フェロポルチンシステムの解明によりその分子レベルで説明することが可能になった5)

2

ヘプシジンの発見

 ヘプシジンは,まずは抗菌ペプチドとしてヒトの血液や尿のサンプルから発見された.Krauseら6)は,2000年に血液透析液から抗菌ペプチドを抽出し,これが肝臓で産生されることからliver‐expressed antimicrobial peptide 1(LEAP‐1)と命名した.このペプチドは,2001年Parkら7)が尿中から発見しヘプシジンと名づけた抗菌ペプチドと同一のものであった.一方,2001年Pigeonら8)は,マウスの鉄過剰状態で発現する遺伝子がヒトヘプシジン遺伝子(HANP)と類似していることを確認し,ヘプシジンが鉄代謝に関与している可能性を推測した.また,2001年Nicolasら9)は,転写因子USF2近傍に位置するヘプシジン遺伝子の欠失が,肝臓,膵臓やマクロファージに著明な鉄沈着をきたすことを報告した.同様の現象はヒトでも観察され,2003年にRoettoら10)が,若年性ヘモクロマトーシスにヘプシジンの変異を認めたことから,ヘプシジンが鉄の吸収に関与していることが確実視されるようになった.逆に,ヘプシジンの過剰発現に関しては,2002年Nicolasら11)は,ヘプシジンを強制発現させたトランスジェニックマウスは著明な鉄欠乏症に陥ることを,また2002年Weinsteinら12)は,ヒトのヘプシジン産生肝腫瘍に著明な貧血が伴い腫瘍摘出により貧血が改善した症例を報告している.以上から,ヘプシジンの発現が低下すれば鉄の吸収が促進され,ヘプシジンの発現が上昇すれば鉄の吸収が抑制されることが判明した.

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ヘプシジンの構造

 ヒトヘプシジン遺伝子は染色体19に位置し,2.5kbの3つのエクソンから転写された0.4kbのmRNAで84アミノ酸からなるプレプロペプチドをエンコードしている7).N末端からのsignal peptideが切断され60アミノ酸のプロヘプシジンが形成される.ヘプシジンの分泌様式に関してはいまだ解明されていないが,プロヘプシジンは血清や尿中には確認されていない.C末端から30‐26位にはfurinでの開裂が推測されるアルギニン配列があり,切断され25アミノ酸つまり活性型ヘプシジン‐25が産生される.切断点の違いで,ヘプシジン‐22,‐20も産生される.ヘプシジン‐25,20は血清・尿中に確認されるが,ヘプシジン‐22は血中では確認されていない3).ヘプシジンは8個のシステインをもち,4個のSS結合を階段状に有したヘアピン構造になっている13)図2).これに対しては抗体の作成がいまだに成功していない.

図2 ヘプシジンの構造
ヘプシジンの構造

4

ヘプシジンの作用

1.フェロポルチン制御

  血清鉄は,鉄輸送膜蛋白であるフェロポルチンを介して,腸管上皮細胞,肝細胞,網内系マクロファージから供給されている14)図3).血液中の鉄量は3~4mgときわめて少ない状態で維持されているが,この少ない血清鉄をヘモグロビン合成のために時間あたり0.8~1.0mg消費している.放置すれば4~5時間で枯渇してしまうことになるため,血清鉄濃度を維持するにはすみやかに貯蔵鉄から血清中へ鉄を供給する必要がある.ここに鉄代謝制御で最も重要な,細胞から鉄を放出するエクスポーターであるフェロポルチンとその作用を制御するホルモンのヘプシジン‐25の2因子が用意されている.生理的状態では,造血で消費されたと同量の鉄が,網内系マクロファージのフェロポルチンを介して時間あたり0.8~1.0mgのスピードで血清中に補給されている.このフェロポルチン機能に障害があれば供給が減少するため,血清鉄は低下し,細胞内に鉄が集積することになる.つまり,フェロポルチンの機能障害は,即機能的鉄欠乏状態に陥るのである.フェロポルチンはヘプシジンの受容体であり,ヘプシジンを結合し,これを内部移行させライソゾームで分解する(図3).その際フェロポルチン自体もヘプシジンと一緒に分解されるため,フェロポルチンが膜輸送蛋白として再生されるまでのあいだは,細胞から鉄を汲み出すことができないことになる5).フェロポルチンとの結合活性はヘプシジン‐25のN末端にあり,ヘプシジン‐22,ヘプシジン‐20にはこの活性はみられない15)
 Riveraら16)は,マウスに合成ヘプシジン‐25を投与すると,1時間以内に血清鉄が低下し,正常化には2~3日を要することを報告している.この結果は,フェロポルチンの再合成による回復には2~3日を要することを意味している.つまり,ヘプシジンの発現が上昇すると,膜フェロポルチンが減少し,血清鉄の供給が低下するわけである.血清鉄のプールは3~4mgときわめて少ないため,供給が低下すれば容易に機能的鉄欠乏状態に陥ることになる.フェロポルチンは,生体では唯一の鉄エクスポーターであり,フェロポルチン欠損マウスでは,マクロファージ内や腸上皮細胞内に鉄が集積し,血清への鉄の供給がほとんどなくなることが報告されている17)

図3 ヘプシジン-25によるフェロポルチン機能の制御
ヘプシジン-25によるフェロポルチン機能の制御

2.抗菌作用

 一方,自然免疫システムに関与する抗菌ペプチドにはcysteine‐richなものが多く,ヘプシジンもそのうちのひとつでもあり,魚から哺乳類までのホモロジーの高いペプチドである7).その作用機序は不明であるが,ヘプシジン自体の抗菌作用に加え,鉄を低下させることで抗菌作用を発揮しているものと考えられている.つまり,多くの病原体はその増殖に多量の鉄を要するため,鉄を低下させることは菌の増殖を抑制することを意味する.現在,ヘプシジン‐25は鉄制御作用と抗菌作用をもち,またヘプシジン‐22は抗菌作用をもち,一方,ヘプシジン‐20はヘプシジン‐25より抗菌作用が強いが鉄制御作用はもたないものと考えられている715)

5

ヘプシジンの発現制御

1.鉄負荷

 鉄を経口的に,または経静脈的に負荷するとヘプシジンの産生が亢進することは知られているが,その分子機構は不明である.TfR2蛋白が,飽和トランスフェリンの存在で誘導されることから18),TfR2は飽和トランスフェリンのセンサーと考えられており,またTfR2欠損による若年性ヘモクロマトーシスではヘプシジン発現が抑制されていることから19),TfR2はヘプシジン制御に必要であると推測されている.しかしマウスでは20),肝TfR2または全TfR2の欠損では5週令まではhep‐1の発現は抑制されているものの,その後はhep‐1の発現がみられることや,若年性ヘモクロマトーシスの原因であるHJVやHFEの欠損では,TfR2が正常でもヘプシジン発現が抑制されていることから,TfR2単独の系での制御ではないようである.
 Babittら21)は,細胞の増殖,分化,アポトーシス,さらに組織の発生に関与すると考えられていたBMPが,鉄代謝に関与することを明らかにし注目されている.彼らはHJVがBMPのcoreceptorであることを示し,HJV/BMPがBMPシグナル伝達系を介してヘプシジンを制御していると推測している(図4).BMPシグナル伝達系はSmadを介していることはすでに明らかにされているが,Wangら22)によるliver specific Smad4‐deficient miceでヘプシジン発現が劇的に抑制され,また鉄負荷やIL‐6でヘプシジンの発現がみられなかったことからも,BMPによるヘプシジンの制御機構の重要性が確認されている.
 以前の報告では,単離した肝細胞の培養上清に鉄飽和トランスフェリンを負荷してもヘプシジンの産生増加はみられないとされていたが,最近Linら23)は,新鮮なマウス肝細胞が飽和トランスフェリンに反応してヘプシジンを産生することを報告し,この反応がBMPのアンタゴニストであるnogginにより抑制されることを確認している.これは,鉄負荷によるヘプシジン産生の系は,BMP経路を介していることを示している.

2.骨髄造血機能

 正常時の造血には20~25mg/1日,0.8~1mg/時間もの鉄が消費されているが,血清には総量で3~4mgの鉄が含まれているのみであり,血清への同量の鉄供給が必要である.そのためには,フェロポルチンを介して鉄が血中へ放出されるように,ヘプシジン発現が抑制されていることが必要であるが,その制御機構は不明であった.近年,造血機能が低下する病態では,肝臓でのヘプシジン発現を促進させる因子が骨髄で産生されている可能性がVokurkaら24)の研究から推測されている.彼らは,高度の溶血による貧血時には造血機能が亢進しヘプシジン産生が抑制されるが,同時にX線照射で骨髄造血機能を抑制させておくと,高度の貧血にもかかわらずペプシジン mRNAが増加することを報告している.さらに,X線照射での骨髄造血機能の抑制状態では,エリスロポエチン(EPO)投与によるヘプシジンの抑制もみられない.つまり,これまで報告されている出血や溶血による貧血,低酸素,EPO投与により認められるヘプシジンの発現抑制は25),骨髄造血機能亢進に基づくものであり,それぞれ直接的作用ではないことが明らかにされた.
 BioIron2007では,Riveraらは抗癌剤による骨髄抑制マウスの血清中に,HepG2のヘプシジン産生を促進する物質が存在することを報告している.一方,骨髄造血機能が亢進しているサラセミア患者の血清にはHepG2のヘプシジン産生を抑制する因子が含まれていることも明らかにされており26),骨髄からのヘプシジン産生の抑制および促進因子の存在が推測される.これらの成績は,血清因子によってヘプシジン産生が制御されていることを示唆しており,今後の同定が期待される.

3.炎症,IL‐6

 感染症や慢性炎症では,ヘプシジン発現が著明に増加する.Nemethら27)は,IL‐6はヘプシジン発現を著明に増加させることを,肝細胞を用いたin vitro実験系で示した.ヒトでもIL‐6を静脈投与すると,鉄やトランスフェリン飽和度の低下とともに,ヘプシジン産生が上昇していた.マウスでは起炎物質テレピン油投与後には急激に血清鉄が低下するが,ヘプシジン欠損マウスやIL‐6欠損マウスではこの反応はみられない25).このような所見から,炎症性疾患ではIL‐6に反応しヘプシジンが産生され,フェロポルチン鉄輸送作用を抑制し血中への鉄の供給が低下し,機能的鉄欠乏性貧血に陥ることが確認された.
 IL‐6のシグナル伝達は複雑であり,ホモダイマーのgp130のリン酸化でMAPKとSTAT pathwayが活性化されるが28),Pietrangeloら29)は,IL‐6によるヘプシジン発現はSTAT pathwayに依存しており,STAT3が転写因子として作用していることを報告している(図4).

図4 ヘプシジン制御のシグナル伝達系(文献28 を改変)
ヘプシジン制御のシグナル伝承系(文献28 を改変)

6

ヘプシジンの測定

 以上のように,主にマウス実験からヘプシジンの機能が解析されてきたが,臨床での影響を理解するには血清ヘプシジンを測定することが不可欠である.しかし,これまでその測定は不可能であった.現在市販されている測定キットはプロヘプシジン抗体を利用したものであり,活性型ヘプシジン‐25をとらえたものではない.そのため,これまでの臨床報告は混乱していた.抗体の得られない現在,唯一の測定法が質量解析計によるものである.われわれは表面改良型レーザー脱離イオン化法(surface‐enhanced laser desorption/ionization)を利用した質量解析法ProteinChip System(Ciphergen)を用い,分子レベルでの血清ヘプシジン‐25の半定量測定法を開発した3).また,最近はLC‐MS/MSを用いて定量が可能になり,1~640ng/mLの範囲でのハイスループット測定法を臨床に応用している(2007年世界腎臓学会).鉄代謝における主要分子である活性型ヘプシジン‐25の定量測定が可能になったことで,ヒト疾患での貧血の解析手段がひとつ得られたことになる.

7

ヘプシジンの臨床

1.正常人のヘプシジン

 正常人では,鉄の負荷状態により異なるが,ヘプシジン‐25値は50ng/mL以下でバランスを保っている.われわれの成績では(図5),1週間連日100mgの鉄を経口的に摂取した症例では,摂取3時間後からヘプシジン‐25発現がみられ12時間でピークに達し,24時間後には前値に復帰していた.その後24時間ごとの測定では,変化はみられなかった.つまり鉄の吸収に対してヘプシジン‐25は非常に敏感に反応していることを示している.
 生理的な状態では,血清鉄を必要とするときにはヘプシジン‐25が低下しフェロポルチンの鉄輸送を促進させ,また不要になればヘプシジン‐25が上昇しフェロポルチンを分解して鉄補給を抑制している.一方,病的なヘプシジン‐25産生亢進状態は,
 (1)鉄の過剰投与
 (2)持続性の炎症
 (3)骨髄機能低下
などの病態でみられる24).しかし,注意すべきことは,同じ産生亢進状態であっても,生体にとって意味が異なることである.つまり,鉄過剰投与時のヘプシジン‐25産生亢進は,体にとってこれ以上の鉄は不要であることを,持続性炎症時の亢進は,鉄は必要だが十分に供給されていないことを,またEPO不足・EPO不応・尿毒症性造血障害などによる骨髄機能低下時にみられる産生亢進は,造血能低下のため鉄を消費していないことを意味している.いずれの場合も,ヘプシジン‐25産生亢進により貯蔵鉄から血清鉄への供給が低下しているのであり,このような状況でさらに鉄が投与されると容易にヘモジデローシスに陥ることになり,注意が必要である.

図5 経口鉄剤100mg服用後の血清ヘプシジン-25の推移
経口鉄剤100mg服用後の血清ヘプシジン-25の推移

2.血液透析患者のヘプシジン

 血清ヘプシジン‐25は,当初血清フェリチンと強い相関を示すペプチドとして血液透析患者血清から発見され,3分の1の症例で異常高値を認めた3).血液透析患者ではヘプシジンのクリアランスが低下しているために,また血液透析患者ではCRP陽性者が多くみられ炎症所見を繰り返すためにヘプシジンが上昇する可能性も考えられている.しかし,その主たる原因は,血液透析患者の骨髄造血機能低下に起因するものと考えられる.血液透析患者は腎性貧血に対してEPOや鉄投与で治療されていることが多いため,骨髄造血機能が変動しヘプシジン‐25はさまざまな反応を示すのであろう.つまり,透析条件が同じであっても,EPOによる造血機能の変動に伴いヘプシジン‐25は変化する(図6).
 また,現在の各国の腎性貧血ガイドラインはフェリチンを100ng/mL以上に維持することを推奨しているため,鉄過剰状態に陥る可能性が高い.これに伴い血清ヘプシジン‐25産生が促進され,貯蔵鉄から血清への鉄の供給が低下する機能的鉄欠乏状態に注意すべきである.

図6 血液透析患者の血清ヘプシジン-25の推移(鉄は投与されていない.)
血液透析患者の血清ヘプシジン-25の推移(鉄は投与されていない.)

3.遺伝性ヘモクロマトーシスとヘプシジン

 本邦では遺伝性ヘモクロマトーシスは少ないが,欧米では頻度が高い.特徴は,食事による腸管からの鉄の過剰吸収であり,その結果トランスフェリンが飽和状態になり,最終的には肝,心,内分泌器官,関節などに鉄が沈着し障害をきたす.頻度の高いのがHFE変異,次いでTfR2変異であり,成人以降に発症する軽症例が多い.HJVやHAMP変異は若年発症であり重症型を呈する.これらの遺伝性ヘモクロマトーシスは,常染色体劣性遺伝であり,いずれもヘプシジン発現が抑制されている30)
 一方,常染色体優性遺伝型にferroportin diseaseがあるが,ヘプシジン産生は障害されていない.これには2型あり,その多くはフェリチンの増加,トランスフェリンの飽和度が正常であり,クッパー細胞にまず鉄が集積する型である31).ほかの型は,トランスフェリンの飽和度が上昇し,肝細胞に鉄が集積する型である.フェロポルチンは膜12回貫通型エクスポーターであり,その変異箇所により分布が異なり,前者の変異蛋白は細胞質内に留まり鉄の放出が低下するためヘプシジンは正常域にあり,後者の変異蛋白は膜に分布するがヘプシジンとは結合しないため,鉄の放出が制限なく続き,ヘプシジン産生は上昇するものと考えられている32)

4.炎症性貧血とヘプシジン

 慢性関節リウマチ,癌,キャッスルマン病などの慢性炎症性疾患では,しばしば貧血を伴うことが知られている.このような疾患では,血清鉄が低下し,貯蔵鉄フェリチンが増加しており,鉄が利用できない状態にある.炎症で血清IL‐6が上昇し,ヘプシジンが誘導され,血清鉄が供給されない状態である.Kawabataら33)は,IL‐6を分泌するキャッスルマン病に対して,抗IL‐6受容体抗体(MRA)を投与すると,血清・尿ヘプシジン‐25値が劇的に改善することを報告している.慢性関節リウマチに対するMRAの効果も,ヘプシジン‐25の反応性から検討されている.
 急性細菌感染症では急激な鉄の低下がみられることは以前から知られているが,これは,感染に伴いヘプシジン‐25が急性相反応物質として肝臓から産生され,フェロポルチン作用を抑制する結果である34).これは細菌に対しては,その鉄利用による増殖を防ぐための,一種の防御反応であろう.

おわりに

 ヒトの体は,鉄を補給しにくい環境にあるため,鉄を体から失わずに体内の鉄を再利用するシステムをもっている.このシステムは,元来は体内に過剰に鉄が入ってくることは想定されていなかったものである.なぜかは不明であるが,血清鉄を3~4mgに保つことが一義的であるため,余分な鉄は血清中に入らないように,吸収を抑制し,または貯蔵鉄として蓄えてしまう.この鉄代謝の要がヘプシジン‐25であることが,ここ数年で明らかになってきた.これは,血清中のヘプシジン‐25が測定できれば,鉄代謝異常の病態の把握,診断,疾患のモニタリングに有用であることを示している.現在,質量分析計を用いてヘプシジン‐25はng/mLの単位で正確に測定することが可能になった.今後,臨床への応用が期待され,鉄投与や瀉血の治療,炎症,造血機能などの判断基準になるものと思われる.

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第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場

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