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<監修>
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 院長 堀田 知光
順天堂大学医学部血液内科 教授 押味 和夫
<編集>
東京医科大学内科学第一講座(血液内科)教授 大屋敷 一馬
自治医科大学内科学講座血液学部門 教授 小澤 敬也
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授 高後 裕
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(血液呼吸器内科)教授 中尾 眞二
高後 裕,生田克哉
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野
鉄は,酸素の運搬や各種酵素活性などに利用されており,生体において欠くことのできない必須の元素である.ところが,鉄が過剰に存在するようになると,逆にラジカル産生などを招き,細胞に対して毒性を示すようになるため,生体内では鉄のバランスは巧妙に制御されている.生体鉄代謝系は半閉鎖系の回路を形成しているが,その基本は,鉄の吸収と貯蔵,その再利用にあり,近年,これら分子生物学的研究の進歩は著しい.特に,腸管での鉄吸収にかかわる分子や,細胞への鉄の取り込み,排出にかかわる分子群,細胞内での鉄代謝を調節する分子群や,長年鉄代謝研究の分野でその存在が想定されながらも同定に至っていなかった生体全体の鉄代謝を統御する調節ホルモンとしての機能を有するヘプシジン(hepcidin)の発見など,鉄代謝研究の分野にかつてないほどの飛躍的な進歩をもたらしている.同時に,生体内鉄代謝の調節が崩れることによる疾患に対する理解も進めているが,その代表的なものとして,遺伝性ヘモクロマトーシス,輸血を含めさまざまな原因で惹起される二次性鉄過剰症,慢性炎症疾患に伴う貧血,などが挙げられる.本稿では,生体鉄代謝の分子機構を概観する.
鉄は生体に最も多く存在する金属元素であり,赤血球のヘモグロビン合成,各種細胞内の酸化還元反応,細胞の増殖・アポトーシスなどに関与する必須の元素である.しかし,逆に鉄が過剰に存在すると,細胞に有害な活性酸素を産生させる細胞毒として働くため,生体内では鉄は多くの分子が関与しながら巧妙に制御されている1).以前はトランスフェリン(transferrin;Tf),トランスフェリン受容体(現在はトランスフェリン受容体1(transferrin receptor 1;TfR1)と呼ばれる),およびフェリチン(ferritin)の3つの分子に関する理解がその大部分を占めていた生体内鉄代謝であるが,ここ10年あまりのあいだに,新規の鉄代謝関連分子が数多く発見され,知見の集積が著しい.これらの分子は表1のように,鉄の運搬に関連する分子,細胞への鉄の取り込みや汲み出しに関連する分子,細胞鉄代謝の調節に関連する分子,細胞内鉄貯蔵に関連する分子など多岐にわたる.
食餌性の鉄は,十二指腸と小腸上部で吸収され,血液中では鉄は通常Tfと結合しており,大部分は骨髄における赤血球造血に利用される.肝臓は門脈を通して食餌性鉄が最初に通過流入する臓器であり,余分な鉄の貯蔵を行ったり,Tfの産生を行ったり,生体鉄代謝全体を調節するホルモンであるヘプシジン(hepcidin)の産生を担い,鉄代謝において非常に重要な臓器である.肝臓に鉄が過剰沈着する病態は,一括して鉄過剰症候群(iron overload syndrome)と呼ばれ,そのような状態では肝細胞壊死,線維化,癌などが生じるため注目を集めている.鉄過剰症候群は遺伝性(原発性)と二次性(続発性)鉄過剰症に大別されるが,遺伝性鉄過剰症は,HFE,hemojuvelin(HJV),hepcidin,ferroportin,TfR2などといった新規に発見されてきた遺伝子の異常により起こる病態であることがわかってきている.二次性鉄過剰症の代表的な疾患は,長期間にわたる輸血に伴うもの,サラセミアなどの無効造血に伴うものなどであるが,最近,ウイルス性肝炎,アルコール性肝炎,非アルコール性脂肪性肝炎などの肝疾患でも肝臓に鉄が沈着し,これらの病態形成に関与することが注目されている.以上のような,生体内の鉄代謝と鉄過剰症に関しては,生体内における鉄そのものや細胞に対する毒性,さらには生体内鉄代謝に関する複雑な分子機構の理解が必須となる.
| 1 | 鉄の運搬に関連する分子 トランスフェリン(transferrin;Tf) |
|---|---|
| 2 | 細胞への鉄の取り込みや汲み出しに関連する分子 (1)細胞への鉄の取り込みに作用する分子 トランスフェリン受容体1(transferrin receptor 1;TfR1) トランスフェリン受容体2(transferrin receptor 2;TfR2) DMT1(divalent metal transporter 1) ZIP14 (2)細胞からの鉄の汲み出しに作用する分子 フェロポルチン(ferroportin) |
| 3 | 細胞鉄代謝の調節に関連する分子 (1)細胞内自由鉄 (2)鉄調節蛋白質(iron regulatory protein;IRP) :mRNA上のiron responsive element(IRE)を介した翻訳調節機構 (3)遺伝性ヘモクロマトーシス原因遺伝子産物(ヘプシジン発現調節?) HFE Hemojuvelin TfR2 (4)鉄代謝調節ホルモン ヘプシジン(hepcidin) |
| 4 | 細胞内での鉄の貯蔵に関与する分子 (1)ferritin(HおよびL-ferritinの計24分子で構成) H-ferritin L-ferritin (2)ヘモジデリン(Lysosome内不溶性鉄顆粒) |
| 5 | その他(鉄酸化・還元酵素として機能し鉄動態に関連する分子) duodenal cytochrome b(Dcytb) hephaestin セルロプラスミン(ceruloplasmin) H-ferritin |
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生体内での鉄の存在様式を大別すると,ヘム鉄と非ヘム鉄に分けられる.
ヘムは,プロトポルフィリンIXと二価鉄イオンから構成される.二価鉄は,ヘムのピロール環に配位して,酸素を結合したり遊離するのに利用されている.ヘム鉄は,赤血球中のヘモグロビン(Hb)として最も多く存在するが,ミオグロビンにも含まれ,酸素の供給に機能している.そのほかにもヘム鉄は,チトクローム,オキシゲナーゼ,ペロキシダーゼ,nitric oxide(NO) synthase,guanylate cyclaseなど数多くの酵素に含まれており,生体に欠かすことのできない機能を担っている.Hbを含む赤血球は骨髄で産生され,全身を循環し,約120日の寿命を終えた後,網内系マクロファージでビリルビンへと分解され,Hbに含まれている鉄は再び再利用されている.この過程において,ヘム酸化酵素(heme oxydase;HO)がヘムの分解に働いているが,体内に存在する鉄のうち最も多いのはHb鉄であるため,このHOに異常が生じると,生体内の鉄代謝異常を引き起こし,結果として酸化ストレス状態の亢進をもたらし,細胞障害をもたらすこととなる.
非ヘム鉄には細胞内に存在する分画と循環血液中に存在する分画がある.細胞内では,鉄はフェリチンやヘモジデリンによって貯蔵されているが,これらは非ヘム鉄である.フェリチンは,H鎖とL鎖の2種類の異なるサブユニットが計24個集合して形成される蛋白で,フェリチン1分子あたり約4,500分子の鉄イオンを貯蔵することができる.フェリチンの一部は血清中へ遊離して,「血清フェリチン」として測定可能であり,その値は生体内鉄量をおおむね反映する.ヘモジデリンは,リソソーム内でフェリチンやそのほかの蛋白質が変性し不溶性鉄顆粒となって存在しているものである.このように,大部分の鉄はフェリチンやヘモジデリンによって隔離・貯蔵されているが,同時にわずかながら自由鉄とも呼ばれるlabile iron pool(LIP)が存在しており,クエン酸やATPなどと結合し,低分子鉄複合体を形成し,細胞内での鉄の需要に応じた鉄の移動に重要であると考えられている.これらのLIPは,redox‐active iron として細胞内における活性酸素種(reactive oxygen species(molecules);ROS)の産生にかかわっている.詳細については不明な点が多いLIPであるが,最近,このLIPをfluorescent chelatorを用いてモニターする技術が開発され,研究の進展が期待されている2).
一方,循環血液中にはTfに結合した鉄(transferrin‐bound iron)や,Tfが鉄で飽和状態になったときにアルブミンなどほかの血清蛋白と結合して生じるnon‐transferrin bound iron(NTBI)が存在する.さらに,NTBIの範疇に入る分子のなかでlabile plasma iron(LPI)といわれるより毒性の低分子鉄画分が提唱され,LPIの定量が鉄毒性の指標になるとした報告がある.
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生体が呼吸で得る分子状酸素のおよそ95%は還元されて水となるが,残りの数%はミトコンドリアやミクロソームの電子伝達系などで完全には還元されていないROSを生成する.このROSは生体に障害をもたらす.二価鉄はelectron donorとして,また三価鉄はelectron acceptorとして,細胞内環境において容易に反応するためさまざまな生化学的反応に利用されているが,逆に過剰状態においては,このROSを産生するように働き得るため,生体にとって毒となる.鉄が関与したROS産生は,主にフェントン反応によるもので,最終的に,スーパーオキシド(
)や過酸化水素(H2O2)から,ヒドロキシラジカル(OHラジカル:OH・)といったROSを産生する.OHラジカルは,そのなかでも最も強力なもので,多糖類,蛋白質,核酸などを標的とし,細胞に障害を与える.
Fe(II)+H2O2→Fe(III)+OH-+OH・
(フェントン反応)
Fe(III)+
→Fe(II)+O2
(net reaction:)
H2O2+
→OH-+OH-+OH・+O2
(Haber‐Weiss反応)
また,鉄過剰状態では,OHラジカルのみではなく,peroxyl(ROO・),alkoxyl(RO・),thiyl(RS・),thiyl‐peroxyl(RSOO・)などの各種ラジカルも産生される3).さらに最近になり,ヘム鉄もラジカル産生に関与すること4),二価鉄が触媒としてではなく,酸素と直接反応することによりラジカル産生をきたし得ることが示され5),過剰鉄とラジカル産生のさらに深い関連が示唆されてきている.
OHラジカルの標的分子のなかで,特に核酸塩基との反応により生じる8‐hydroxyguanine(8‐OHG)は酸化ストレスに起因する変異原性,発癌に密接に関与する.H2O2と類似の反応性を示すものとして,脂質過酸化物(lipid hydroxyperoxide;ROOH)がある.鉄過剰状態では,malonedialdehyde(MDA)や4‐hydroxy‐2‐nonenal(HNE)などの脂質過酸化物は増加し,その結果,ROO・(アルキルペルオキシラジカル)やRO・(アルコキシラジカル)が生じる.これらのラジカルは,OHラジカルより長命で,慢性の細胞障害やDNA切断効果がある.
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成人男子の体内鉄総量は約5gで,その65%程度は赤血球Hb鉄が占め,残りは肝臓,脾臓,骨髄に貯蔵鉄として存在するほか,筋肉のミオグロビン鉄やすべての細胞の呼吸酵素や薬物代謝酵素のヘム鉄として利用される.
生体内での鉄の動態をみてみると,図1のように,経口摂取された食物に含まれる鉄は小腸で吸収され,血液中に入りTfと結合しdiferric transferrin(Fe2‐Tf)となり全身を運搬されるのだが,食物から吸収される鉄は1日1~2mg程度と少なく,実は大部分の鉄は老廃した赤血球がマクロファージなどの網内系で処理され再利用される鉄である.血液中のFe2‐Tfの大部分は骨髄において赤血球造血に利用されるが,一部は肝臓などに貯蔵され必要に応じて利用される.一方で,生体には鉄を体外に積極的に排出する機構が存在せず,生理的には消化管粘膜上皮や皮膚の剥離などで生じる1日1mg程度の鉄の喪失しかない.そのため,鉄は体内で半閉鎖的な回路を形成することとなるが,これは生体内鉄代謝の大きな特徴といえる.
図1 生体内での鉄の動き(経口摂取時と輸血時)

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上記のような生体内鉄代謝は臓器別に,
(1)消化管における吸収
(2)骨髄における鉄の取り込みと利用
(3)網内系における老廃赤血球からの鉄の捕捉と再利用
(4)肝臓での鉄貯蔵
の4つに分けて考えることができる.これらの臓器別鉄代謝の特徴を表1に示すような分子の働きを交えながら説明する.
食事中に含まれる鉄は,大別すると非ヘム鉄とヘム鉄に分けられる.非ヘム鉄は主に三価鉄であるが,上部小腸における腸管上皮細胞の腸管内腔側細胞膜上に存在するduodenal cytochrome b(Dcytb)によって二価に還元され6),二価鉄トランスポーターであるdivalent metal transporter 1(DMT1)によって腸管細胞内に運ばれる.ヘム鉄は,最近heme carrier protein(HCP)によって細胞内へ吸収され,heme oxygenase‐1(HO‐1)によって分解されると考えられるようになった7).腸管細胞内に入った鉄は,その後血管内腔側に存在するフェロポルチンによって血管内に放出される8).その際に二価鉄として放出される鉄をhephaestinと呼ばれるセルロプラスミンと相同性をもつ分子が三価鉄に酸化し,Tfに結合し,全身を運搬される9)(図2).
生体内における鉄利用のほとんどは,網内系による赤血球Hb鉄の再利用によりまかなわれるが,これに関与する細胞には,脾臓や骨髄などの組織マクロファージ,肝臓のクッパー細胞がある.循環している赤血球の寿命は,1日あたり平均120日であり,1日あたり20mLの赤血球から由来した20mgの鉄が網内系・マクロファージで処理されることになる.マクロファージ内では,貪食された赤血球から由来したヘムは,ヘムオキシダーゼにより分解,三価鉄が遊離する.遊離した鉄はフェロポルチンによって再び循環に戻され,Tfへ再度受け渡され,骨髄での赤芽球産生に再利用される8).
生体中では,鉄の貯蔵臓器として最も重要な役割を果たしているのが肝臓である.肝実質細胞は,ほかの細胞よりも多くの鉄取り込み経路を有するとされている.肝細胞は,通常の血液中に存在するFe2‐Tfのほかに,鉄が過剰に存在するときにNTBIのかたちとなっている鉄も吸収する.
まず,Fe2‐Tfの取り込み経路であるが,これには,TfR110),transferrin receptor 2(TfR2)11),TfR非依存性経路12)が知られている.TfR1は古くから知られ,ほかの細胞においてもFe2‐Tfの取り込みに重要な働きをしている.血清Tfは,図3のように細胞膜表面のTfR1に結合すると,endocytosisにより細胞内へ取り込まれる13).この際に細胞膜表面においてTfR1と結合しcomplexを形成している蛋白としてHFEおよびβ2ミクログロブリンがある.HFEは1996年に遺伝性ヘモクロマトーシス(hereditary hemochromatosis;HH)の原因遺伝子として発見された分子であるが,現在までその詳細な生理機能は完全には解明されていない14).endocytosisにより細胞内に取り込まれたFe2‐Tfを結合したTfR1は,エンドソーム内のpHが酸性にシフトすると,Tfに結合していた鉄はエンドソーム内に遊離する15).エンドソームは,その後細胞表面へ戻り,鉄を結合していないTfおよびTfR1は再利用される.このようなrecycling経路が形成されている.一方,エンドソーム内に遊離された鉄は,DMT1によって細胞内に運ばれ,利用されたり,フェリチンに格納される.TfR1のhomologue分子として発見されたTfR2も細胞膜表面上に発現するが,Fe2‐Tfとの結合は非常に弱く,生理的に鉄取り込みに寄与しているかどうか詳細は不明である11).そのほか,これらの受容体に依存しない経路も存在し12),さらには,NTBIが存在する際にそれらを取り込む経路としてDMT1やZIP14などの分子の関与が考えられている16,17).
骨髄中の赤芽球では盛んなHb産生のため,非常に多くの鉄を必要とする.赤芽球には細胞外Tf鉄を取り込む分子としてTfR1が強く発現している.TfR1経路によって細胞質へ輸送された鉄は,ミトコンドリアに運ばれる.glycineとsuccinyl CoAから,δ‐アミノレブリン酸合成酵素(eALAS)により合成されたδ‐アミノレブリン酸を前駆体として,その後の合成過程を経て形成されたポルフィリンのピロール環の中心に鉄が入り込み,ヘムが合成される.ヘムは細胞質内で合成されたグロビン蛋白質と結合して最終的にHbが形成され,分子状酸素を運搬することができるようになる.
図2 小腸上皮絨毛細胞における鉄吸収

図3 トランスフェリン受容体1による鉄の取り込み機構

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通常,経口摂取される食物からは鉄はわずかに吸収され,喪失による不足分を補っているが,血液疾患の治療をはじめとした臨床の場における輸血の際には状況が異なる.輸血される赤血球に含まれる鉄量は,血液1mLあたり約0.5mgであり,わが国での輸血1単位(全血200mL,赤血球濃厚液約140mLに相当)では,約100mgの鉄を含むことになる.輸血の場合の鉄の動態としては,まず輸血によって体内に入った赤血球が老廃し網内系マクロファージに捕捉され処理され,鉄は循環中に再利用のために戻されるが,このような際には処理される量が増えるため,通常よりも非常に多くの鉄が急激に放出され不飽和鉄結合能を越えてしまうことが想定される.こうなると,通常ではほとんど認められないNTBIの形で鉄は存在するようになり,肝臓をはじめとした実質臓器に取り込まれ蓄積し,容易に鉄過剰状態となる18).
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生体内鉄代謝は,各臓器においてさまざまな分子が関与しつつ巧妙に調節されることが明らかとなってきていたが,これらの臓器は生体内で物理的に離れており,統合的に調節を行う液性因子などの存在は長いあいだ想定されながらもみつかっていなかった.ところが,2000年から2001年にかけて,ヘプシジンという物質が,生体内鉄代謝を調節する機能を有することが判明し,鉄代謝研究は大幅な進展をすることとなった19,20).
ヘプシジンは当初,肝臓(hep‐)由来の抗菌物質(‐cidin)として発見された.活性型ヘプシジンは25アミノ酸からなり,8個のシステイン残基をもつ特徴的な構造をとる.hepcidin mRNAの発現は,ほぼ肝臓に限局している.当初は鉄代謝と無関係に発見されたヘプシジンであったが,その後の知見の集積より,ヘプシジンは鉄の消化管での吸収およびマクロファージからの鉄の放出を抑制する作用をもつことが推測され,ヘプシジンこそ長いあいだ捜し求めていた鉄調節ホルモンであると考えられるようになった21),22),23).
ヘプシジンが発見され,その後病態解明が飛躍的に進んできたものとして,遺伝性ヘモクロマトーシスをはじめとする鉄過剰症候群と,慢性炎症に伴う貧血(anemia of chronic disease;ACD)が挙げられる.ヘプシジンやその拮抗薬開発などは,これらの疾患に対して,将来有用な治療法を生み出す可能性を秘めており,活性型ヘプシジンの測定系確立と普及とともに,基礎的研究分野だけではなく,臨床的側面からも研究の進展が非常に期待されている.
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生体内鉄代謝の調節が崩れ,鉄が過剰に蓄積するようになると,最も障害を受け重要となるのは鉄貯蔵臓器として働く肝臓である.肝実質細胞とクッパー細胞で鉄をフェリチン,ヘモジデリンのかたちで貯蔵している.一般に,実質細胞への鉄の沈着が高度の場合にはヘモクロマトーシス,クッパー細胞などの網内系細胞への鉄の沈着が高度である場合をヘモジデローシスと表現する.このうち,肝実質細胞に鉄が過剰沈着した場合は,細胞内に遊離の鉄イオンが生じやすく,細胞障害が起こりやすい.遺伝性ヘモクロマトーシスなどでは,肝細胞内での鉄の過剰沈着の結果,肝臓は細胞壊死,線維化(肝硬変),肝細胞癌などの病態が生じるが,このような肝臓での鉄イオンの蓄積は,特殊な状態でのみ起きる現象でないことが明らかになってきており,一括して鉄過剰症候群と呼ばれる.表2のように,原発性鉄過剰症と二次性鉄過剰症に大別され,原発性の代表的な疾患は遺伝性ヘモクロマトーシスであり,二次性の代表的な疾患は,
(1)サラセミアなどの無効造血に伴うもの
(2)輸血ないし長期間鉄剤投与に伴うもの
(3)食餌性鉄負荷
(4)各種肝疾患
などである.
原発性鉄過剰症のほとんどを占める遺伝性ヘモクロマトーシスは,その原因となる遺伝子によって分類されている.遺伝性ヘモクロマトーシスの85%程度においては,HFE遺伝子にC282Y変異が検出されているが,HFE遺伝子変異を認めない一部の若年性ヘモクロマトーシスと呼ばれる一群が存在する.そのなかには,ヘプシジンの遺伝子異常に起因すると考えられる症例が存在するが,hepcidin遺伝子自体に変異が認められない場合でも,ヘプシジンはヘモクロマトーシスの病態形成にかかわっていることが考えられている.ヘモクロマトーシスでは,鉄が体内に過剰な状態にあるため,当初ヘプシジンは高値となっているものと想像されていたが,実際にはHFE遺伝子変異をもつヘモクロマトーシス患者においても鉄過剰に反してヘプシジンの発現が低下していることが報告された24).現在ではHFEやTfR2,さらにはHJVといった分子は,ヘプシジンの発現を調節する因子であり,遺伝子異常によってその調節機構が崩れることでヘモクロマトーシスが発症すると考えられるようになってきている25,26).
二次性鉄過剰症においても,ヘプシジンの関与が最近明らかとなってきている.アルコール性肝障害において肝に鉄過剰状態が認められることは古くから知られていたが,最近になり,アルコールによってヘプシジンの発現が低下し,それが引き金となって,結果的に生体を鉄過剰に導くことになることが指摘されるようになった27,28).
C型慢性肝炎組織においても,鉄の過剰蓄積が認められ,肝細胞における鉄沈着を引き金として,肝細胞壊死,線維化,発癌への過程が促進されると考えられている.このようなC型慢性肝炎における肝臓の鉄沈着が起こる機序としては,TfR1やTfR2の発現が亢進し鉄吸収が増加しているという報告もみられるが29,30),さらに,ヘプシジン発現の低下が生じ,肝臓での鉄沈着に寄与している可能性も指摘されている31).
| 遺伝性鉄過剰症 | (1)遺伝性ヘモクロマトーシス(hereditary hemochromatosis;HH) type1:HFE遺伝子(6p21.3)異常 type2:subtype A:hemojuvelin(HJV)遺伝子(1q21)異常 subtype B:hepcidin遺伝子(19q13)異常 type3:transferrin receptor 2(TfR2)遺伝子(7q22)異常 type4:ferroportin遺伝子(2q32)異常 (2)Ferritin遺伝子異常 :H‐ferritin遺伝子異常(mRNA IRE*変異) (3)DMT1遺伝子変異(1285G>C変異) (4)Ceruloplasmin遺伝子異常 (5)無transferrin(Tf)血症 :Tf遺伝子異常 |
|---|---|
| 二次性鉄過剰症 | (1)無効造血をきたす疾患 :サラセミア,骨髄異形成症候群など (2)長期にわたる大量の輸血 (サラセミア,骨髄異形成症候群,再生不良性貧血など) (3)長期にわたる鉄剤の投与(経口および静注) (4)食餌性鉄過剰症 (5)肝疾患に伴うもの :アルコール性肝障害,C型慢性肝炎,非アルコール性脂肪性肝炎 (6)その他 :ポルフィリン症など |
*:IRE;iron responsive element
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慢性炎症に伴う貧血(ACD)は炎症性貧血(anemia of inflammation)とも呼ばれ,さまざまな感染症,自己免疫性疾患,炎症性腸疾患,悪性腫瘍など,炎症状態が存在すると考えられる多種多様な疾患において認められる貧血である.ACDにおいては,消化管での鉄吸収が抑制され,なおかつ網内系からの鉄の放出が抑制され網内系に鉄が蓄積しており,鉄代謝が障害されているのは古くから知られていたが,詳細に関しては長いあいだ研究の進展は認められなかった.しかし,ヘプシジンが発見されると,ACDにおいては,まず何らかの感染や炎症が体内に存在し,血清中のIL‐6やIL‐1βなどが上昇することで肝臓でのヘプシジン産生が亢進し,体内を循環し,消化管での鉄吸収および網内系マクロファージからの鉄放出を抑制し,結果的に血清鉄の減少をきたし,造血に利用され得る鉄が減少することになるため,最終的に貧血をきたすことになると考えられるようになった32,33,34).現在,その病態解明がさらに進められている.
以上のように,ここ10年あまりのあいだに,多数の新規鉄代謝関連分子が同定され,生体内鉄代謝の基礎的理解が飛躍的に進んだだけでなく,鉄過剰症やACDといったさまざまな疾患の病態に関する理解も進んできている.この分野の研究の進展は,これらの鉄が病態形成に関与した疾患の有望な治療法開発にも結びつくため,今後のさらなる発展が期待される.
References
第56回日本輸血・細胞治療学会総会 ランチョンセミナー
期日/2008年4月25日
会場/福岡国際会議場