日本のガイドライン
輸血後鉄過剰症の診療ガイド(骨子)
| 対象患者 |
様々な原因による骨髄不全で輸血依存となり、かつ1年以上の余命が期待できる例 |
| 輸血後鉄過剰症診断基準 |
- 総赤血球輸血量20単位(小児の場合、ヒト赤血球濃厚液50mL/体重kg)以上および
- 血清フェリチン値500ng/mL以上
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| 鉄キレート療法開始基準 |
輸血後鉄過剰症において、下記の1、2を考慮して鉄キレート療法を開始する。
- 総赤血球輸血量40単位(小児の場合、ヒト赤血球濃厚液100mL/体重kg)以上
- 連続する2回の測定で(2ヶ月間以上にわたって)血清フェリチン値>1,000ng/mL
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| 鉄キレート療法開始基準の解説 |
下記のような場合は、鉄キレート療法の開始にあたり、総輸血量および血清フェリチン値の両方を考慮し、総合的に判断する。
- 慢性的な出血や溶血を伴う場合。
- 現在輸血を受けていない場合(造血幹細胞移植、薬物療法などが奏功した例)
- 輸血とは無関係に血清フェリチン値が慢性的に高値を示す合併症がある場合
(例えば、スティル病、血球貪食症候群、悪性腫瘍など)
なお、鉄キレート療法は、余命1年以上が期待できない患者に対しては推奨されない。
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| 維持基準 |
- 鉄キレート剤により、血清フェリチン値を500~1,000ng/mLに維持する。
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輸血後鉄過剰症の治療とモニタリング(1)
対象疾患
赤血球輸血依存(月2単位以上の輸血を6ヶ月以上継続と定義)となった患者のうち、1年以上の余命が期待できる例
対象疾患に関する解説
輸血依存となる場合は、例えば以下のようなものが含まれる。
- 骨髄異形成症候群
- 骨髄異形成症候群以外の骨髄不全症候群
- 再生不良性貧血および類縁疾患(慢性赤芽球癆など)
- 原発性骨髄線維症
- 他の二次性骨髄不全
- がん化学療法に続発する骨髄不全
- その他の疾患に合併する骨髄不全
- 付記:
- 1)骨髄異形成症候群(MDS)と、2)MDS以外の骨髄不全症候群を区分した理由:国際的な鉄過剰ガイドラインはMDSに限定しているが、本診療ガイドはMDS以外の骨髄不全も包括するために1)、2)として記載した。
輸血後鉄過剰症の治療とモニタリング(2)
鉄過剰治療の目的
輸血依存症例に対する鉄過剰治療とは、鉄の蓄積による、進行性かつ不可逆的な臓器障害のリスクを軽減し、患者の予後とQOLの改善を目指し、血清フェリチン値の低下および臓器障害の軽減などを指標として治療するものである。
輸血依存症例に対するモニタリング
- 輸血依存となった時点で、鉄蓄積量の指標として、血清フェリチン値を定期的(少なくとも3ヶ月に1回)測定する。
- 鉄過剰による臓器障害の有無を確認するために、下記のような検査を輸血依存となった以降定期的に施行することが望ましい。
- 心機能:
- 心エコー検査等により心機能を評価する。
- 肝機能:
- CTまたはMRI、血液生化学検査(トランスアミナーゼ測定等)により肝機能障害を評価する。
- 膵内分泌機能:
- 尿糖、血糖、グリコアルブミンなどの測定により耐糖能異常を評価する。
輸血後鉄過剰症の治療とモニタリング(3)
鉄過剰の診断基準
下記の2項目に当てはまる場合には輸血後鉄過剰症と診断する。
- 総赤血球輸血量20単位(小児の場合、ヒト赤血球濃厚液50mL/体重kg)以上
- 血清フェリチン値(SF) 500ng/mL以上
鉄過剰の重症度基準
鉄過剰の病態を把握するために、下記のように重症度基準を設ける。
- 血清フェリチンの値に基づき下表のようにStage1~4に分類する。
- 鉄過剰との関連性が疑われる(すなわちSF値の上昇や輸血歴とともに出現または増悪する)心機能・肝機能・膵内分泌機能の障害について、明らかな臓器障害が認められない場合をA、認められる場合をBとし、Stageと併記する。 (例:Stage1A)
- 心機能障害:
- LVEF<50%
- 肝機能障害:
- 肝酵素異常・肝線維化・肝硬変の所見
- 膵内分泌機能障害:
- 耐糖能低下の所見
| SF |
Staging |
| >500ng/mL |
Stage 1 |
| >1,000ng/mL |
Stage 2 |
| >2,500ng/mL |
Stage 3 |
| >5,000ng/mL |
Stage 4 |
輸血後鉄過剰症の治療とモニタリング(4)
鉄過剰治療
鉄キレート剤を用いる。
鉄キレート剤治療開始時は必要に応じ(鉄過剰症診断が困難な場合等)、血液専門医に相談することが望ましい。
<補足>
- 瀉血療法は輸血依存の難治性貧血において適応とならない。
鉄キレート療法開始基準
推奨
輸血後鉄過剰症において、下記の1・2を考慮して鉄キレート療法を開始する。
- 総赤血球輸血量40単位以上
(小児の場合、ヒト赤血球濃厚液100mL/体重kg以上)
- 連続する2回の測定で(2ヶ月間以上にわたって)
血清フェリチン値 > 1,000ng/mL
経過観察
上記1、2のいずれにも当てはまらない場合は、モニタリングを継続する
輸血後鉄過剰症の治療とモニタリング(5)
鉄キレート療法開始基準に関する解説
- 下記のような場合には、鉄キレート療法の開始にあたり総赤血球輸血量(40単位)および血清フェリチン値(SF>1,000ng/mL)の両方を考慮する。
- 慢性的な出血や溶血を伴う場合
- 現在輸血を受けていない場合
(造血幹細胞移植、薬物療法などが奏効した例)
- 輸血とは無関係にSFが慢性的に高値を示す合併症がある場合
(例えば、スティル病、血球貪食症候群、悪性腫瘍など)
- 鉄キレート療法は、原疾患・重篤な合併症などにより余命1年以上が期待できない患者に対しては推奨されない。
輸血後鉄過剰症の治療とモニタリング(6)
鉄キレート療法開始基準に関する解説
- 本邦における疫学調査の結果、臨床的異常を示した症例の90%以上でSFが1,000ng/mLを超えており、SFが1,000ng/mLを超えるとSFの上昇とともに肝機能障害を有する症例が増加する傾向が認められた。そのため鉄キレート療法はSFが1,000ng/mLを越えた時点で開始することが推奨される。また、75%の患者がSF>1,000ng/mLとなる総赤血球輸血量は40単位と推定されたため、1と2はほぼ同程度の臨床的意義をもつ指標と考えられる。
- SFは体内の鉄量の指標として完璧ではないが、有用・簡便かつ信頼できるものである。定期的に測定されるSF値が持続的に1,000ng/mL以上であった場合、体内に過剰な鉄が蓄積している可能性が高い。
- 一般に鉄過剰は慢性的に進行するため、生存期間の長い症例ほど鉄過剰症が生存およびQOLに及ぼす悪影響は大きい。このような例では鉄キレート療法による臨床的有用性が特に大きいと考えられる。
維持基準
- 鉄キレート剤により、血清フェリチン値を500~1,000ng/mLに維持する。
輸血後鉄過剰症の治療とモニタリング(7)
鉄過剰モニタリング
- 輸血依存症例に対するモニタリングと同様の検査を継続する。
- 鉄キレート剤を用いた場合には、一般に腎・肝・感覚器に有害事象が出現する可能性があるので、腎機能・肝機能・視力検査・聴力検査を定期的に実施する。実施項目および頻度は各薬剤の添付文書の推奨に従う。
- 他の検査項目については各薬剤の添付文書の推奨に従う。
鉄キレート剤治療効果維持
- 鉄キレート剤開始(または増量後)3-6ヶ月経過してもSFの増加傾向が認められる場合には、鉄キレート剤を増量する。
- ただし輸血頻度が低い(月2単位以下)または現在輸血を実施していない場合には、鉄キレート剤を慎重に増量する。投与方法に関しては各薬剤の添付文書に準拠する。
輸血後鉄過剰症の治療とモニタリング(8)
鉄キレート剤治療安全性維持
- SFが継続して500ng/mLを下回った場合には鉄キレート剤を中断する。
- 血清クレアチニンが持続的に上昇した場合は鉄キレート剤を減量又は休薬する。腎機能障害のある患者や、腎機能低下を誘発する薬剤を投与中の患者では、治療開始または投与量変更後1ヵ月間は毎週血清クレアチニンを測定する。
- 本薬剤に起因した血清トランスアミナーゼの持続的な上昇が認められた場合には鉄キレート剤を休薬し、適切な処置を行う。肝機能検査値異常の原因が判明し、肝機能検査値が正常化した後、減量して治療を再開する。
- 難聴及び水晶体混濁が報告されているため、鉄キレート剤投与開始前及び投与後は定期的(12ケ月毎)に聴力検査及び眼科的検査(眼底検査を含む)を行い、異常が認められた場合には減量又は休薬し、適切な処置を行う。
- 鉄過剰症の小児患者においては、成長障害の早期発見のため、体重、身長、二次性徴を定期的(12ケ月毎)にモニタリングする。
輸血後鉄過剰症の診療ガイド(フローチャート)
- ※1赤血球輸血依存状態(≧2単位/月の赤血球輸血を6ヶ月以上継続)にあり、1年以上の余命が期待できる例
- ※2鉄の体内蓄積量の指標として、少なくとも3ヶ月に1回血清フェリチン値を測定すること。
- ※3鉄キレート剤の使用中は、腎機能・肝機能・感覚器に有害事象が出現する可能性があるため、腎機能検査・肝機能検査を定期的に、視力検査・聴力検査を毎年実施すること。
「輸血後鉄過剰症の診療ガイド」策定メンバー
自治医科大学内科学講座血液学部門: 小澤 敬也、鈴木 隆浩
長崎大学原爆後障害医療研究施設内科: 朝長 万左男、宮崎 泰司
金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学: 中尾 眞二
東京医科大学血液内科: 大屋敷 一馬
大阪大学血液・腫瘍内科学: 松村 到
旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学: 高後 裕
札幌医科大学内科学第4講座: 新津 洋司郎
名古屋大学大学院医学系研究科小児科学: 小島 勢二
アドバイザー
Heinrich-Heine University, Düsseldorf, Germany: Norbert Gattermann
輸血後鉄過剰症の診療ガイド
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
特発性造血障害に関する調査研究(平成20年度)
研究代表者 小澤 敬也